Departmental Bulletin Paper ヘルムート・ラッヘンマンの声楽作品《テムアー》(1968)に関する考察 : ジェルジ・リゲティ《アヴァンチュール》(1962)との比較を通じて

伊藤, 彰

29pp.97 - 106 , 2017-03-31 , 国立音楽大学大学院
ISSN:02894807
Description
本研究ノートは《テムアー》(1968)を分析し、ヘルムート・ラッヘンマン(Helmut Lachenmann 1935~)の声楽作品における創作の一特徴を明らかにする。この作品は、ラッヘンマン自身のプログラムノートを参照すると「リゲティ(György Ligeti 1923~2006)の《アヴァンチュール》(1962)があるにも関わらず、呼吸が音響的に伝えられるエネルギーのプロセスとしての役割を果たす最初の作品群の一つ」であると述べている。つまり呼吸が音響的な役割を果たす重要な役割を担っており、呼吸が作品のテーマとなっている。本稿は、呼吸が音響的にどのような役割を果たすのかを考察し、《テムアー》と《アヴァンチュール》を比較、検討することによって、同じ目的を別の方法で実現していたことを示す。ラッヘンマンは70年代より音楽の素材理論を発展させ、自ら「楽器による具体音楽(ミュージック・コンクレート)」と呼ぶ音の生成の機械的状態を作曲の中に組み込んだ方法論に基づきながら、現在に至るまで伝統的な楽器の音を異化することを創作の核としている。ラッヘンマンの創作においては「楽器による具体音楽」の実践によって音を異化して用いるが、「歌声」もどのように異化して用いるかが創作上の問題になっている。《テムアー》は、「楽器による具体音楽」による最初期の実践であり、声楽作品または声が用いられる作品の中でもとりわけ重要な作品として位置付けることができる。ラッヘンマンが《アヴァンチュール》について指摘した「呼吸が音響的にどのような役割を果たすのか」ということに加え、それぞれの作品で「声」と「器楽」にどのような音色的連関が見られるのかということについても、本稿の重要な分析の視点として考察を行った。その分析結果として《テムアー》、《アヴァンチュール》共に 息音や叫び声などを「音色」、或いは「音響」の素材として用いた点は共通する。《テムアー》は「声」と「器楽」の音色的な連関が構造の要であるのに対し、《アヴァンチュール》はその関係性はごく一部にしか見られない。《テムアー》は「声」と「器楽」の音色的な連関、「同質の音色のブレンド」による音色的な連関をより発展的に探求した作品と言える。また《テムアー》の構造の中には、聴取-期待の逸脱が組み込まれる。同時代に創作されたふたつの作品は共に、呼吸が音響的な役割を果たすが、その「構造」は互いに異なる手法で取り組んでいたと考えられる。

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