紀要論文 『枕草子』の雪景色―作品生成の原風景―

赤間, 恵都子

内容記述
四季の風景を平等に取り上げる『枕草子』は,春秋に重きを置く平安文学の中で特異な作品である。四季の中でも文学的な風物の乏しい冬に,唯一,注目される雪は,清少納言が特に好んで描いた素材であった。本稿は,『枕草子』の雪景色を取り上げ,作品内で雪がどのような場面に描かれているのかを考察し,雪景色が作品生成の源となる風景として,『枕草子』執筆に大きな役割を担っていたことを論じる。まず,初出仕した清少納言が宮廷で出会う主人定子や上流貴族たちの印象深い姿が,雪景色と共に描かれる。そして,宮仕えに慣れた清少納言は,香炉峰の雪の段で,定子後宮を代表する女房として称賛される。定子後宮は公的な場で女性が漢詩漢文を自由に口にできる革新的な文化を持っており,清少納言はその気風にたちまち適応した。そんな定子後宮のモデルとして『枕草子』に引かれる村上朝の風雅な逸話にも,月雪花の漢句が引用されていた。中関白家が没落し,定子が内裏に入れず大内裏の職御曹司に滞在していた時,職御曹司の庭で雪山作りが行われた。雪山完成直後,女房たちの間で雪山がいつ消えるかの賭けが始まり,その賭けの途中で定子の内裏参入が実現する。この時の定子の内裏滞在は第一皇子誕生に結びつくが,政治情勢は彰子立后を企てる道長側に傾いていた。そこで,『枕草子』に表立って記述することが憚られた一条天皇と定子の会合は,雪山の賭けを利用して書き留められたと考えられる。最後に,『枕草子』が決して語らない定子葬送の日の雪景色がある。それは他のどの場面よりも深く降り積もった雪景色であり,定子を喪った作者を作品執筆へと突き動かした風景だったと考える。以上,初出仕から定子崩御に至る清少納言の宮仕え生活の折々で,雪が重要な場面に登場していたことを確認する時,『枕草子』は雪景色から生まれた作品だったと言えるのである。
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