Departmental Bulletin Paper 近代日本における芸術歌曲としての「日本歌曲」概念の成立

津上, 智実

64 ( 1 )  , pp.127 - 140 , 2017-06-20
Description
本論の目的は、近代日本における「芸術歌曲」としての「日本歌曲」という概念の成立と用語法の変遷を歴史的に明らかにすることである。今日、「ドイツ歌曲」等と並んで「日本歌曲」というジャンルがあるのは自明のこととなっている。しかるに戦前の音楽活動を調査すると、「歌曲」という用語の不在に驚かされる。音楽雑誌『月刊楽譜』(東京:松本楽器、1912~1945)の附録楽譜について言えば、「歌曲」という用語が安定して出現するのは1936年と遅く、それまでは「歌曲」よりも「独唱曲」の方が広く用いられていた。芸術歌曲としての「歌曲」が用語として現れ、概念として定着するまでには、どのような道のりがあったのだろうか?この問いに答えるために、本論では、1)音楽辞典類、2)語学辞典、3)放送用語、の3つを取り上げて考察した。その結果、芸術歌曲としての「Lied」ないしは「song」の訳語として「歌曲」という用語が出現する例は1920年代までに散発的に見られるものの、音楽辞典における訳語として定着するのは1949年以降であることが明らかになった。これは音楽雑誌や演奏会プログラム等における表記が1930年代半ばから一般的になったのに比べて、さらに遅い。1949年の日本放送協會『放送音樂用語』で「歌曲」という訳語が定められて以降、ほぼすべての音楽辞典で「歌曲」という用語が統一的に用いられるようになったが、「Liedform」については「歌曲形式または歌謡形式」とされており、戦前の用語法の名残を引き摺っている例が見受けられる。このように近代日本における芸術歌曲としての「歌曲」概念は、さまざまな紆余曲折を経て、想像以上に長い時間をかけて成立・定着したものである。今日ごく当たり前の概念として用いている「日本歌曲」ないし「歌曲」という用語は、明治の開国以来150余年の歩みの中で、その半分以上を費やして形成されてきたものなのである。
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