Technical Report 日本のイノベーションとスター・サイエンティストの役割:現状と課題

長根(齋藤), 裕美  ,  牧, 兼充

(SciREX-WP-2018-#01) 2018-06 , 政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策研究センター (SciREX センター)
Description
 本稿では基礎研究の担い手であるサイエンティスト、特に“スター・サイエンティスト”に着目し、学術論文の生産のみならず、彼らの産業界で果たす役割やインパクトについて、先行研究を通じて考察しつつ、独自のデータ分析を加えたうえで、今後のスター・サイエンティスト研究の展望を行う。 第1節では基礎研究の定義と分類の説明がなされたうえで、その基礎研究の担い手であるサイエンティストに着目することがどうして必要かが示される。特に社会・経済に強烈なインパクトをもたらすという観点から、サイエンティストの中でも、科学的発見から技術開発まで、様々な点で優秀な“スター”に着目することの重要性が強調され、本稿の目的が説明される。 第2節ではスター・サイエンティストとは何かが議論された後、この分野のパイオニアであるカリフォルニア大学ロサンゼルス校のLynne Zucker教授とMichael Darby教授の一連の研究が紹介される。本節ではスター・サイエンティストのベンチャー企業への関与が、ベンチャー企業のパフォーマンスの向上にどう影響するかが示される。 第3節では、逆にスター・サイエンティストのベンチャー企業への関与が、スター・サイエンティストの研究業績にどう影響するかが示される。一連のZucker and Darbyの研究成果を踏まえると、スター・サイエンティストと企業が何らかの形で関わると、それぞれ研究業績および企業業績が上がるという“サイエンスと商業化における好循環”の存在というきわめて興味深い結果が示唆される。 第4節では、上記のサイエンスと商業化における好循環は、国を超えた普遍的な現象なのか、Zucker and Darbyの国際比較の結果を紹介する。さらには日本に焦点をあてて、科学技術基本法以前の日本の産学連携についての新しい視点を提示するとともに、その背景に何があったか、日本のナショナル・イノベーション・システムの特徴を踏まえて考察する。 第5節では、スター・サイエンティストが産業界に及ぼす影響に主に焦点を当てたZucker and Darbyの一連の研究に対して、スター・サイエンティストのアカデミックの世界にもたらす影響に焦点をあてた研究を紹介する。ここでもスーパー・スターが周囲に研究上プラスの影響を与えていることが示唆される。特にスターのなかでも、単に生産性が高いだけではなく、他の研究者の助けになるようなスターが、他の研究者に学術上よい影響をもたらすことも示されている。 第6節では、データを用いて世界のスター・サイエンティストの最近の動向が分析される。米国が圧倒的にスター・サイエンティストを輩出しており、日本のスター・サイエンティストの存在感はそれほど大きくないこと、特に日本のスター・サイエンティストの数はここ最近低下傾向にあることが示される。また国力(人口やGDP)とスター・サイエンティストとの関係についても国際比較される。そこでは経済規模が拡大しても、線形にスター・サイエンティストの数が増えていくわけではないことが示され、インプットが大きくなるほどアウトプットの増加率は逓減する、限界生産性の逓減が示唆される。また研究分野別および所属機関別の世界のスター・サイエンティストの現況も示される。 第7節では日本における直近のスター・サイエンティストの現状について所属機関、分野別に分析される。さらには彼らの学術的側面だけではなく、産業界における役割について検討するため、日本のスター・サイエンティストの特許の状況について分析される。特許の登録数や被引用回数についてスター・サイエンティストの間でも差は大きいものの、彼らの半数以上が少なくとも特許登録をしたことがあり、また半数近くが特許の被引用もされていることが明らかになった。すなわち日本のスター・サイエンティストは、論文執筆のみならず、特許の面でも貢献している可能性がある。 最後に結語ではスター・サイエンティスト研究の今後の課題について展望する。This study focuses on “Star Scientists” and examines their roles in and impacts on industries. Star Scientists are leaders of basic research. A “Star” often refers to a scientist who can publish many articles with high quality. However, we believe that Star Scientists can not only publish many high-quality articles but also positively contribute to industries. Therefore, we examine their roles in and impacts on industries through reviewing previous works. In particular, we introduce a series of research outcomes by Lynne Zucker and Michael Darby (University of California, Los Angeles) as pioneers of Star Scientists’ research. These researches suggest that Star Scientists can improve their academic performance and firms can also improve their business performance when they are connected with each other in some form or another. We call this phenomena as “Virtuous Circles in Science and Commerce.” Based on these previous works, we show new viewpoints about Japanese academic-industrial collaboration before the implementation of the Science and Technology Basic Law in 1995. We examine the background and characteristics of the national innovation system in Japan. We preliminarily analyze the most recent status of Star Scientists worldwide using our data. We also show the distribution of Star Scientists over countries and research fields. Thereafter, we analyze the relationship between the number of Star Scientists and national power (population, nominal GDP, GDP per capita). Further, we focus on Star Scientists in Japan and analyze how many Star Scientists in Japan register patents and the number of times their patents are cited to explain their impacts on industries. We find that over half of the Star Scientists in Japan have registered for patents and nearly half of them have been cited. This finding implies that Star Scientists in Japan contribute to not only academia but also industries. Finally, we overview future issues of Star Scientists’ research.
本研究はJSPS 科研費(15H03377, 25705008)の助成を受けたものである。
Full-Text

https://grips.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=1624&item_no=1&attribute_id=23&file_no=1

Number of accesses :  

Other information