会議発表用資料 模擬瓦礫浸漬中のウランの全反射蛍光X線分析

吉井, 裕  ,  松山, 嗣史  ,  伊豆本, 幸恵  ,  石井, 康太  ,  酒井, 康弘

2017-10-26
内容記述
【はじめに】今後,東京電力福島第一原子力発電所の廃炉過程においてU-238,U-235,Pu-239といった核燃料に由来する核種に汚染された可能性のある汚染水が見出され,その放射能濃度の決定が必要になることが予想される.これらのうち,Pu-239は半減期が2.4万年と比較的短いため,単位時間当たりのα線放出数が多く,少量の汚染水を乾燥させてα線計測することにより放射能濃度を決定できる.一方,U-238とU-235の半減期はそれぞれ44億年,7億年と非常に長く比放射能が極めて低いため,α線計測により放射能を決定するためには数Lもの汚染水を半日程度かけて乾燥させ,2~3時間かけてα線エネルギースペクトルの測定を行う必要がある.このため,このような従来の方法では少量の汚染水が多数見つかった場合に対応できない.そこで我々は全反射蛍光X線(Total reflection X-ray fluorescence: TXRF)分析法に着目した.一般にTXRFに求められる試料量は10 µL程度であり,測定時間は数分間と短い.我々の先行研究において,TXRFによる純水中のU-238の検出下限値として0.30 ppmを得ているが,これを放射能に換算した検出下限放射能は4.7 mBq/cm3となり,法令上の排水基準である20 mBq/cm3を大きく下回っている1).これは,半減期が長いほど質量を放射能に換算した時に値が小さくなるためであり,TXRF分析法は長半減期核種の分析において効果的であると言える.我々の先行研究では超純水を溶媒としているが,廃炉現場の汚染水には建屋の瓦礫に由来する様々な成分が含まれていると考えられる.そこで本研究では,廃炉現場の汚染水を想定して瓦礫浸漬液を作成し,これにU-238を含有する多元素標準溶液を混合して模擬ウラン汚染瓦礫浸漬液とし,そのTXRF測定を行った.瓦礫浸漬液にはルビジウムが含まれており,Rb Kα線がU Lα線と重なるため,測定されたスペクトルをピークフィッティングで分離したほか,分析前にUTEVAレジンでU-238を抽出してから測定する方法を採用し,その結果を比較した.【実 験】模擬瓦礫浸漬液は,工事現場で採取した瓦礫を超純水に約1年間浸漬させて作成した.作成した模擬瓦礫浸漬液を濾過し,5倍に濃縮したうえで,濃縮模擬瓦礫浸漬液4 mLに対して多元素標準溶液XSTC-1407(SPEX社)をそれぞれ0, 2, 4, 6, 8 mL加え,全体が20 mLになるように超純水でメスアップした.XSTC-1407はCo, Cs, Cu, Th, Uをそれぞれ10 ppm含んでいるので,作成した試料中のウラン濃度はそれぞれ0, 1, 2, 3, 4 ppmとなる.また,瓦礫浸漬液は5倍濃縮したうえで5倍に希釈したことになるので,瓦礫成分は同量のがれき浸漬液と同じだけ含まれている.これらの溶液を各濃度に対して5本ずつ用意して,このうち1本はそのまま,残る4本は以下に示すようにUTEVAレジン (Eichrom社) で処理したうえでそれぞれTXRF測定に供した.UTEVAレジンにウランを吸着させるため,試料溶液に濃硝酸を加えて硝酸濃度を約4 Mに調整した.4 M硝酸で十分に洗浄したUTEVAレジンに試料溶液を通液速度1 mL / min で通液し,ただちに0.025 M塩酸16 mLでウランを溶出し,超純水で20 mLにメスアップした.なお,UTEVAレジンにはトリウムも吸着されるため,溶出液にはトリウムも含まれる.UTEVAレジン処理したもの、していないものそれぞれについて,試料溶液190 µLに内標準物質である1000 ppm In標準液 (和光純薬) 10 µ Lを加えて測定試料とし,石英ガラス基板上に10 µL滴下して乾燥させてからTXRF測定を行った. TXRF測定にはアワーズテック 200TXを用いた.管電圧,管電流はそれぞれ40 kV,0.2 mAとし,測定時間はそれぞれ3分間とした.これに先立ち,XSTC-1407, In 標準液およびRb標準液(和光純薬)をそれぞれガラス基板に滴下・乾燥させて測定時間1時間でTXRF測定した.その結果をガウス関数でフィッティングしてU Lα, Th Lα, Rb Kα, In Kα線のピーク幅を決定した.測定した模擬汚染水試料のTXRFスペクトルの解析におけるガウスフィットでは,これらの値にピーク幅を固定し,ピーク強度とバックグラウンドのみをパラメータとした. 【結果と考察】測定されたスペクトルをUTEVA処理なし・有りについてそれぞれFig. 1に示す.スペクトルにはピークフィッティングの結果を合わせて示している.UTEVA処理なしの試料のスペクトルにはRb Kα線が現れているが,UTEVA処理をしたものではRb Kα線は全く見出されていない.UTEVA処理の有無にかかわらずU Lα線のピーク強度は誤差の範囲で等しく,UTEVA処理によるウランの回収率はほぼ100%と推定された。求められた検出下限値はUTEVA処理したものに対して0.25 ppm,UTEVA処理しなかったものに対して0.44 ppmであった.UTEVA処理をしなかった場合,U Lα線のピーク範囲にあるRb Kα線の信号強度もバックグラウンドとみなされるため、検出下限値が比較的高くなっている.試料調整から測定終了までの総分析時間はUTEVA処理をしなかった場合,約45分間であり,UTEVA処理をしたものではUTEVA処理のために約1時間が追加される.UTEVA処理をしなくてもピークフィッティングによって十分にピークの分離ができており,検出下限値も十分に低いといえる.ただし,ルビジウムの濃度がウランの濃度に比べて非常に高い場合はピークフィッティングが難しくなることも予想されるため,このような場合にはUTEVAレジンでのウランの抽出は効果的であるといえる. 【おわりに】本研究により,模擬瓦礫浸漬液中のウラン濃度をTXRF分析することで,汚染水中のウラン濃度が法令排水基準を満たしているか否かを迅速に分析する手法が確立された.今後は,さらに検出下限値を引き下げるための方策について検討していく.本研究は,原子力規制委員会原子力規制庁「平成29年度原子力発電施設等安全技術対策委託費(東京電力福島第一原子力発電所の放射性廃棄物の特性評価に関する検討)事業」 として実施した.【参考文献】1) T.Matsuyama, Y.Izumoto, H.Imaseki, T.Hamano, Y.Sakai and H.Yoshii, J. NUCL. SCI. TECHNOL,54 (9), 940, (2017).
第53回X線分析討論会

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