会議発表用資料 創薬におけるイメージングバイオマーカーの活用と産学連携

須原, 哲也

2017-05-18
内容記述
ポジトロン CT (PET) は短半減期のポジトロン放出核種で多様な化合物を標識できることから、診断のみではなく薬物の体内での評価に広く用いられている。目的とする化合 物を直接標識してその体内分布や動態を評価する手法は、マイクロドース臨床試験として 早期のヒトでの薬物動態を評価できる手法として期待されたが、実際の創薬現場ではそれ ほど普及しているとは言えないのが現状である。その理由としては新規標識化合物のヒト への投与は多くの場合研究機関で行われており、製薬会社は研究機関への委託もしくは共 同研究の形で行うこととなる。この場合、開発早期の薬物を研究機関で標識することが必要となり、構造を含めた必要情報を研究機関に開示する必要が出てくる。またすべての候 補化合物ができるかというと、現時点では化合物の性質を変えずに標識できる炭素1 1 による標識には短時間で反応を進めるために構造上一定の制約がある。またマイクロドース という特徴は逆に極微量の動態を見ているわけで、薬理量で実際どうなのかという問いにどこまで答えられるかという点は、個々の薬物によって異なる可能性があ る 。一方で、既存の薬物の標識から、薬物を直接標識することにより、体内の代謝やトランスポーターの 器質性などを評価できることが明らかになってきている。図 1 は半減期 20 分の炭素 11 で標識した抗精神病薬スルピリドの体内分布をトレーサー量と、薬理量のスルピリドを服薬した状態での分布を示す。トレーサー量のスルピリドの分布から分かることは、標的臓器である脳への移行が非常に悪いこと、肝臓と腎臓が排泄臓 器であることが分かる。さらに薬理量のスルピリドを付加することにより肝臓への集積が低下することが明らかになった。トランスポーターに依存して臓器に集積している可能性を示唆する所見である。現在薬物の評価でもっともよく用いられているイメージング指標は、標的分子への結合の程度を示すoccupancy (占有率)という指標である。抗精神病薬を例にとると、その主たる作用点は、脳内のドーパミン D2 受容体遮断作用であることからドーパミン D2 受容体に選択性が高い raclopride を炭素11 で棟識した[11C]raclopride が 脳内のドーパミンD2 受容体を可視化するのにもっとよく用いられている。抗精神病薬の脳内結合の評価は、ドーパミンD2 受容体に選択的な放射性リガンドの特異的結合部位での競合阻害 の程度を放射性リガンドの結合の変化で評価する方法が用いられている (回2 ) 。特異結合部位での受容体密度を反映する図2 抗精神病薬服薬前の [11C]racloprideとされる結合能 (Binding Potential; BP) を指標にして、抗精神病薬の占有率(%)は以下の式で求められる。受容体占有率(%) = 100 X (無服薬 BP ー服薬 BP) I 無服薬 BPこの手法を用いたこれまでの研究では、治療域として線条体で70-80% のドーパミンD2 受容体占有率が報告されており、占有率が80%を超えると副作用である錐体外路症状が出現することが示されている。一方中枢神経系の創薬は新しい作用機序の薬の開発が成功しないことから世界的に停滞気味となっている。中枢疾患領域の医薬品研究開発が難しい理由として「病態解明がすすんでいない」、「至適用量設定が困難」、「臨床効果を反映した定凪的なバイオマーカーの欠 如」、「疾患の Heterogeneity (患者層別化の必要性)」など複数の要因が挙げられるが、これらは一つの製薬会社あるいは一つの研究機関で解決できる課題ではなく、産学官の幅広い連携体制が求められる。日本学術会議が製薬企業 20 社を中心に行ったアンケートでは、創薬研究開発ツ ールに関してはバイオマーカー関連技術、特にイメージング関連技術に対する期待が高く、企業 ・政府 ・アカデミアが競争前に大同団結して Public Private Partnerships (PPPs) バイオマーカー開発を行うことに対する期待が多かった。現在は1 社だけでは新しい治療薬の開発は困難にな ってきているという認識が各企業にあり、企業がアカデミアに期待するのは病態の本質に迫る科学的に価値の高い研究を基盤とした連携で、特に精神 ・神経疾患においては、客観的指標としてのバイオマーカー開発、中でも疾患の異種性を背景とした患者層別化の技術が強く 求められているという結果であった。そのような観点から、量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所では平成 29 年度より、企業間連携の場として創薬批子イメージングアライアンスを立ち上げ、創薬に必要なイメージングバイオマーカーを共同で開発しようという仕組みを立ち上げる。この仕組みを利用することにより、共通の標的分子のイメージング開発が加速されることが期待されている。
日本薬物動態学会 第31回ワークショップ

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