一般雑誌記事 PADC飛跡検出器の放射線高感受性部に見られる段階的な損傷形成

楠本, 多聞  ,  森, 豊  ,  金崎, 真聡  ,  小田, 啓二  ,  山内, 知也  ,  誉田, 義英  ,  藤乗, 幸子  ,  ミッシェル, フロム  ,  ジョン-エマニュエル, グロエ  ,  小平, 聡  ,  北村, 尚  ,  レミ, バリロン

(103)  , pp.41 - 45 , 2017-05 , 日本放射線化学会
ISSN:2188-0115
内容記述
ポリアリルジグリコールカーボネート(PADC)は、CR-39という商品名で知られている最も感度の高いエッチング型飛跡検出器である。我々は、PADC中のイオントラック(潜在飛跡)形成機構を理解するために体系的なイオン照射と赤外線分光分析を進めている。PADCは繰り返し構造の中央にエーテル基、エチレン基を介してその対称的な位置にカーボネートエステル基という非常に放射線感受性の高い部分を有することが大きな特徴である。繰り返し構造の両端は、重合の際に生まれた、ポリエチレン状の3次元のネットワークを構成している。これらの部分はエーテル基やカーボネートエステル基と比較して、放射線感受性の低い部分である。PADC中の三又路を形成する部分を除いたほとんどのCH基がメチレン基に属している。本研究ではそれらの一つ一つとメチレン基を含めてCH基と呼ぶ。また、繰り返し構造の長さは約2nmである。これまでに、1.2eV/nm~12,000eV/nmという非常に広い阻止能域で、特定の官能基が失われている径方向の広がり(実効的トラックコア半径)やトラック単位距離当たりの損傷数(損傷密度)、放射線化学収率(G値)などの化学的損傷パラメータを評価してきた。エーテル基およびカルボニル基の実効的トラックコア半径は阻止能が800eV/nmの前後で最適曲線の勾配が変化している。800eV/nmでのエーテル基の実効的トラックコア半径は約2nmである。これはPADCの繰り返し構造の長さに相当し、エーテル基の損傷の径方向の広がりが2つ以上の繰り返し構造におよぶと、損傷がさらに広がりやすくなることを示唆している。また、CH基損失の実効的トラックコア半径は800eV/nm前後で傾向に変化は見られないが、PADCの検出閾値である17eV/nm前後で阻止能に依存しない領域が確認された。これより、検出閾値の前後でトラックの構造が明らかに異なっている事実が初めて実験的に示された。PADC中に形成されるイオントラックに関して、これまでに評価した最も小さなエーテル基の損傷密度は70MeVのプロトンのものであり、その値は0.54scissions/nmである。また、実効的トラックコア半径は0.21nmであることから、トラックの径方向については隣接するエーテル基が同時に損傷を受けることはまれであるが、飛跡に沿った損傷の密度は十分に高く、この方向の損傷の重なりを無視できるとは言い難い。PADCの特異な損傷構造を理解するためには、飛跡の径方向だけでなく軸方向にも損傷の密度が低い条件で分析を行う必要がある。PADCの特異な損傷の構造を理解することは、同検出器の感度の高さを分子構造から理解することになると期待される。この目的のために、本研究ではプロトンよりも付与エネルギーが2桁低い28MeVの電子線も焦点を当て、飛跡方向の損傷の重なりが無視できる低密度の初期電離効果を調べた。

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