Departmental Bulletin Paper ヒックス『賃金の理論』の再検討 : 雇用の一般理論序説
Reappraisal of Hicks’s The Theory of Wages : A Prelude to the General Theory of Employment

小畑, 二郎

66 ( 4 )  , pp.1 - 55 , 2017-03-31 , 立正大学経済学会
ISSN:02883457
NCID:AN00069955
Description
この論文は,ジョン・R・ヒックスの『賃金の理論』(1932/1962)を現代の労働市場の歴史的評価との関連で再検討することを目的とする.それは,何よりも現代の労働市場が抱えている問題,一部企業(とくに「ブラック企業」)における労働条件の劣悪化の問題,「正規社員」と「非正規社員」との間での労働条件の差別化の問題,人種間・性別間の差別の問題,貧富の差の拡大の問題などに対して,ヒックスの『賃金の理論』が今なお重要な示唆を与え続けているという理解からである.他方で,ヒックスのこの著作は,経済学の歴史を研究する立場からも重要である.ケインズの『一般理論』は,何よりも「雇用の一般理論」を提供することを目指していた.しかし,実際には,この本は,有効需要や投資の理論に付随させて,雇用の問題を論じていたにすぎなかった.雇用を増大させるためには,もちろん投資と産出量の増加がなければならないが,そのような因果関係がいえるためには,資本と労働の組み合わせによって示される技術水準の変化が労働市場に対していかなる影響を与えるかについて検討されなければならなかった.これに対して,ヒックスの著作は,1920 年代までのイギリスの労働市場を参考にしていたが,労働市場に固有の問題を一般的に論じ,また現代の雇用問題に対しても示唆を与え続けている.また,資本と労働の組み合わせによって示される技術水準の変化が,雇用の状態に与える変化についても検討していた.単に,それだけでなく,アダム・スミス以来の賃金に関する古典的理論や,マーシャル,パレート,ピグー,ジョーン・ロビンソンなどによる近代の賃金理論との歴史的関係をふまえて,それらの理論を一歩前進させるような展望を切り開いていた.したがって,ヒックスの『賃金の理論』を再検討することは,賃金や労働に関連する経済学説史を研究する立場からだけでなく,現代の焦眉の問題,すなわち雇用を巡る様々な問題に対する解決策を見出すためにも重要な課題の一つである.本稿では,まず「方法的均衡理論」として,ヒックスの賃金理論を再解釈し,労働市場の均衡を想定するための条件と,均衡理論の帰結について詳しく検討する.すなわち,実際には,様々な不均衡の要因が作用する労働市場について,人工的に均衡状態を想定し,そのような想定を可能にするための条件と,そのような想定から引き出される帰結について検討する.そして,このような本稿の検討は,均衡条件を外した場合に,何が問題とされなければならないかについて検討し,現代の労働市場の動態について分析するための参考基準とされる.
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http://repository.ris.ac.jp/dspace/bitstream/11266/5906/1/%5b001-055%5d.pdf

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