紀要論文 日本語の叙述的所有表現の獲得に関する予備的考察

松藤, 薫子

内容記述
本研究では,日本語児の自然発話資料に基づき,叙述的所有表現の獲得過程を考察することを目標とした。所有とは,所有者が譲渡可能な物を永続的に支配することをいう。松藤(2012, 2014)の知見から得られた(A)のような大人の言語知識に対して,(B)のような子どもの獲得過程で見られる特徴を明らかにした。(A) 叙述的所有表現に関する大人の言語知識a. 語順に関して,「ある」または「持っている」を含む所有文では所有者,所有物の語順が基本である。それに対して「ある」を含む存在文では,場所,存在物の順,存在物,場所の順の両方の語順がみられる。b. 「ある」所有文では,所有者には,人間が多く使われる。所有者の名詞句には「には/ に/ は」のいずれかが付加される。所有物の名詞句には定名詞句や連体修飾節が使われないという定性の制限がみられる。一方,「ある」存在文では,場所を表す位置には,場所表現が使われる。場所を表す名詞句には必ず「に」が付与される。存在物の名詞句には定性の制限はみられない。c. 所有という意味を表す構文には少なくとも「X{には/ に/ は}Y がある」「X{は/ が}Y を持っている」がある。後者は携帯の意味でも使われる。携帯とは,身につけたり手に持ったりして持ち運ぶことをいう。所有文としての使用範囲は前者の方が広い。(B) 子どもの言語獲得過程にみられる特徴a. 所有文も存在文も大人と同じ語順で使われた。b. 「ある」所有文では,所有者には,人間で使われることが多いが,早期から動植物・人工物でも使われていた。所有者の名詞句に付加される「には/ に/ は」は,使われない場合が多かった。使用頻度が少ないが「は」「に」「も」「が」が使われた。所有物の名詞句には定名詞句や連体修飾節がみられず,定性の制限に従っていた。一方,「ある」存在文では,場所を表す位置には,場所表現が9 割以上であった。存在物の名詞句には「に」が8 割以上使われていた。存在物の名詞句に定名詞句や連体修飾節がみられ,定性の制限はみられなかった。c. 所有という意味を表す構文「X{には/ に/ は}Y がある」「X{は/ が}Y を持っている」において,これらの構文が2 歳台から使われ始めた。この2つの構文が表す意味の差異は大人の場合は,「ある」「持っている」を含む所有文と「持っている」の携帯文があるが,子どもの場合は,全体と一部の関係をとらえる「ある」状態文と「持っている」の携帯文であった。大人の言語知識には「ある」「持っている」の所有文があるため,日本語児の叙述的所有表現の獲得に関する仮説として(C)を提案する。(C) 日本語児の獲得過程には,「ある」所有文に関しては全体と一部の関係から所有者と所有物の所有関係への意味の拡張,「持っている」文に関しては,携帯から所有への意味の漂白化がある。
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