紀要論文 ドイツ刑法における犯罪論の現況について

アルントゥ ジン

第49巻 ( 第1号 )  , pp.69 - 99 , 2015-06-30
ISSN:0010-4116
内容記述
 本稿は,ドイツにおける犯罪論・帰属論・犯罪概念に関する議論をその草創期から現在に至るまで概観し,そのうえで,現在,日独両国の刑法解釈学において通説とされている不法と責任とを区別する見解を痛烈に批判,不法責任統合説の体系的・論理的利点を主張するものである。本稿の著者であるSinn教授の分析によれば,不法と責任との区別に関する議論は,MerkelとJheringとの民事不法と刑事不法との区別に関する論争にその端を発するものである。しかしながら,そこでの議論,ならびにその議論がその後の刑法解釈学にもたらした影響を詳細に観察してみると,不法と責任とを区別するとの考えは,必ずしも自明のものではなく,むしろ多くの問題点をはらんでいるという。すなわち,刑罰の発動が,行為者および共同体構成員に対する呼びかけ(コミュニケーション)であるとする著者の考えからすれば,刑罰の前提となる犯罪の成否においても明快な体系が求められるのであって,「有責的不法」,「責任なき不法」,「不法ではない状態」の3つを観念する通説には理論的な複雑さが伴う。それゆえに,規範の呼びかけの効果も薄れ,合規範態度の期待も弱まるというのである。この点で,「不法」か「法」かだけを問題とする不法責任統合説に利点が多いと,著者は主張する(VIII章)。 また,本稿で注目するべきは,この不法と責任との区別に関する考察のみならず,ドイツにおける犯罪論が簡潔にまとめられている点にもある(II 章から VII章)。著者いわく,犯罪論の歴史をひもとくことは,「個人として可能な作業の限界をも超える」のであるが,本稿はその歴史の概観を得るうえで,最良の素材となろう。くわえて,本稿では,著者の教授資格取得論文(書評として,たとえば Beulke ZIS 2009, 170 ff.)のテーマである支配権説(Machttheorie)が紹介されており(IX章),著者の主張する犯罪論,犯罪体系論の基礎を知る上でも好個の論稿である。
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http://ir.c.chuo-u.ac.jp/repository/search/binary/p/9515/s/7977/

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