紀要論文 ピランデッロとティルゲル : ティルゲルの相対主義思想がピランデッロに与えた影響の検証
Pirandello versus Tilgher : Verification of the influences of Tilgher’s relativism upon Pirandello’s thought

斎藤, 泰弘

49pp.295 - 320 , 2016-03 , 京都産業大学
ISSN:0287-9727
NII書誌ID(NCID):AN0006019X
内容記述
ピランデッロの『ウモリズモ』(1908 年)は,彼の劇作品を育む土壌となった《生》の原体験を明らかにすることによって,自分の人生観や芸術観を読者に語ろうとした本である。この時期の彼は,《生》についての個人的な体験から,社会生活の中で人びとが現実だと自分で思い込んでいるものは,すべて幻想であるという悲観的で反理性主義的な人生観を抱いていた。したがって,彼の芸術は,たえず幻想を現実だと思い込み,たとえそれが錯覚でも,人間の置かれた真の悲惨な境遇に目を向けないために,幻想を抱き続けるしかない人類への《苦い同情心》に溢れていた。だが,このような人間観と芸術観にいくらかの変化が起きるのは,哲学者アドリアーノ・ティルゲルの『現代の相対主義者たち』(1921 年)の影響である。この本は,哲学分野ではジェンティーレの行動的観念論が,政治分野ではムッソリーニのファシズムが,そして,芸術分野ではピランデッロの演劇が,現代の最先端の相対主義思想の表われであると述べていたからである。ティルゲルによれば,現代の相対主義はポジティブな面とネガティブな面の2 つの側面を持つ。ファシズムに見られる積極的な行動主義と,孤独なモナドとなった人間の相互伝達不能性を示すピランデッロの芸術である。ピランデッロは彼の説明のおかげで,自分の人生観が,ネガティブな要素だけでなく,ポジティブな要素―《われわれは,われわれが自分で作り上げるものである》というファシズム的な要素―も孕んでいることに気付かされ,その結果,彼は社会への参加として,ファシズム運動に賛同することになる。だが,その後すぐに,彼はファシズムの行動主義は,たんなる仮面や演出に過ぎないことに気付いて,その正反対の,彼の生来の人生観―《われわれが自分で作り上げるものは,われわれではない》―という人間は錯覚の中でしか生きられないという人生観の方が,まさに真実であったことを改めて思い知らされるのである。 このファシズム時代の芸術と哲学の相克の問題については,イタリアだけでなくアメリカを含む他の西欧諸国でも,すでに答えの出ている過去の問題として片付けられ,原資料に立ち返って具体的かつ詳細に検証しようとする論文が見当たらないので,その空白を埋める試みとして本論が執筆された。
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http://ksurep.kyoto-su.ac.jp/dspace/bitstream/10965/1331/1/AHSUSK_HS_49_295.pdf

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