Thesis or Dissertation 教育施設における屋内塵ダニの汚染状況及びダニアレルゲンの除去に関する研究

元木, 貢

Description
自然界には、ほとんど目にとまらないような微小なダニが無数に存在している。人家内でも寝具、床材(畳、カーペット)、穀類、貯蔵食品、菓子類などにダニが侵入し、棲息していることがあり、これらのダニは屋内塵ダニと総称されている。衛生学上問題となるのは、これらの何種類かが人体に寄生する場合及びこれらがアレルゲンとなって喘息などの原因となる場合である。 屋内塵性ダニ類がアレルギー疾患に関与していることが Voorhorst et Boezeman(1964)によって報告されて以来、チリダニ科ヒョウヒダニ属のコナヒョウヒダニ Dermatophagoides farinae とヤケヒョウヒダニ D. pteronyssinus が重要であることが明らかとなった。これらのダニの棲息場所は主として屋内塵中で、とくに埃が溜まりやすいフトンなどの寝具、カーペット、畳、ソファーなどに多く、気管支喘息やアレルギーの原因となる。ダニアレルゲンは、生体ダニばかりでなく、死骸や糞もアレルゲンとして重要な役割を果たしている。 本研究では、教育施設における屋内塵ダニの汚染状況を明らかにし、気管支喘息患者宅におけるダニアレルゲン除去の効果について検討を行った。1. 教育施設における屋内塵ダニによる汚染状況について 2004年に学校保健法の「学校環境衛生の基準」が改正され、「毎学年1回、定期に保健室の寝具、カーペット敷きの教室等のダニの発生しやすい場所におけるダニ又はダニアレルゲンの検査」が新たに規定された。検査は、「1m^2を電気掃除機で1分間吸引して屋内塵を捕集し、顕微鏡でその中のダニ数を計数するか、それからアレルゲンを抽出して酵素免疫測定法によってアレルゲン量を測定する」こととなった。また、「これらと相関の高い方法によって行うこともできる」とされた。その基準は「ダニ数100匹/m^2以下又はこれと同等のアレルゲン量以下であること」である。その結果の数値によってその後の具体的な対策は明らかにしていない。一方、厚生労働省の基準は「ダニ数100匹/m^2以下又は1000ng/m^2(Der 1)以下に保つこと」としている。しかし、この基準と国際標準となっているWHOの基準「ダニ数100匹/g以下、糞由来(Der 1)ダニアレルゲン量が2μg以下)」は基準単位が違うために比較が困難な状況にある。 そこで、本研究ではダニ数とDer2(虫体由来ダニアレルゲン)を調査して、それらによる汚染状況を明らかにし、学校環境衛生の基準と従来からダニ汚染の指標とされてきた厚生労働省の基準およびWHOの基準との比較を初めて行った。 調査は東京都港区内にある公立小・中学校29校の普通教室、図書室、保健室、コンピュータ室、音楽室などの床面(カーペット、板敷、畳、Pタイル)及び保健室の寝具を採塵対象とし、合計146検体を採取し、ダニ数及び虫体由来のダニアレルゲン量を調査した。採塵方法は家庭用電気掃除機の先端にあるノズルとパイプのつなぎ目に専用の集塵袋をセットして行った。その結果、1m^2当たり総ダニ数は畳>カーペット>寝具>板敷の順に多く、文部科学省基準(100匹/m^2以下)を超えたのは、5校(17%)6ヵ所(寝具3ヵ所、カーペット2ヵ所、畳1ヵ所、板敷0)で、細塵1g当たりの平均総ダニ数では、畳>寝具>板敷>カーペットの順に多く、細塵量の多いカーペットでは相対的に細塵1g当たりのダニ密度が低かった。WHOの基準ではダニ数指標として屋内塵1g当たりのダニ数100匹を感作の閾値、500匹を急性喘息発作の閾値としているが、感作の閾値を越えたのは全体では27校(93%)56ヵ所(畳8、板敷8、寝具29、カーペット11)、急性喘息発作の閾値を越えたのは14校(48%)15ヵ所(畳2、板敷3、寝具7、カーペット3)で、文部科学省の基準はWHOのそれよりもかなり緩やかな基準であることが明らかになった。 いずれの材料でも総ダニ数に占めるヒョウヒダニ属の割合は高く、細塵1g当たりではカーペット、板敷、寝具で90%を越え、畳でも58%を占めた。今回の調査で検出されたダニ類は4亜目14科で、種まで同定されたのは、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、イエチリダニ Hirstia domicola、ケナガコナダニ Tyrophagus putrescentiae、バイチヒゲダニ Histiostoma laboratorium、イエニクダニ Glycyphagus domesticus、イエマルニクダニ Chortoglyphus domicola、イエササラダニ Haplochthonius simplexの8種であった。いずれの材料でもコナヒョウヒダニが最優占種となり、カーペット、板敷、寝具ではその割合が80%を超えた。これに対して畳ではコナヒョウヒダニの平均優占率は49%で、それに代わってホコリダニ類(Tarsonemidae spp.)やイエササラダニの優占率が高かった。なお、刺咬性のツメダニ類(Cheyletidae spp.)は板敷と畳からごくわずかに検出されたのみで、吸血性のイエダニやワクモなどは検出されなかった。 各床材のDer 2量の中央値を求めた結果、畳247ng/m^2>寝具31ng/m^2>板敷18.5ng/m^2>カーペット16ng/m^2の順となった。これを細塵1g中のDer 2量でみると、畳1,880ng>寝具934.5ng>カーペット135ng>板敷130.5ngであった。 ヒョウヒダニ数とダニアレルゲン量の関係は、100匹/m^2とした場合では、カーペット、板敷、畳、寝具の順に、300、210、1200、530ngとなり、100匹/gとした場合ではそれぞれ830、510、590、980ngとなった。その結果、カーペット、板敷、寝具では、m^2当りで示されるダニアレルゲン量の1g換算量ではr=0.8以上であることから両者の相関がみられることが明らかになった。ただし畳に関してはr=0.45で相関は認められなかった。 これらのことから、結論として、WHOの基準であるダニアレルゲン量(2μg/g)と比較して厚生労働省の基準はゆるく、国民数人に1人と言われているアレルギー患者の減少対策には無理があると考える。さらに、今回の調査研究により、100匹/m^2と100匹/gのダニ数を調査した結果はWHOの基準(100匹/g)を超えた学校が大部分を占めたことから、WHO基準にわが国も合わせることが必要であることを明らかにした。しかし、WHOはDer 1のアレルゲン量のみが規定されて、Der 2に関しては基準がなされていない。今後はWHOに対してDer 2の基準を作成することを勧告する必要があることを明らかとした。2. 気管支喘息患者宅におけるダニおよびダニアレルゲン除去の効果に関する検討 H総合病院の小児科に通院中の気管支喘息の患児宅で、寝具や床材の改善がダニアレルゲンをどの程度減少させ、気管支喘息症状の改善効果が見られるかについて検討した。 調査対象とした、症例Aの家族構成は両親と女児1人、男児3人の6人家族で、女児(10才)と長男(13才)が気管支喘息患者であった。家屋は木造2階建て、1階和室床(12.4m^2)と2階和室床(9.9m^2)が畳張りで、家族全員が2階和室に布団を敷いて就寝していた。実験開始後は畳をコルク床に交換し、布団は出荷前に熱処理を行ないダニがいない新しい防ダニ布団に変更した。採塵場所は1階和室床、2階和室床、勉強部屋、女児の布団、長男の布団の計5ヶ所で、床と寝具の変更前と変更後は毎月1回、その後は年2~4回、床は部屋全体から、布団は1m^2から5分間採塵し、採取した塵を冷蔵庫(10℃)で12時間以上保管した後、アレルゲンの測定に供した。ダニアレルゲンの測定は、マウスのモノクロナール抗体(mAb)を使ったELISA法によって行った。 変更前、細塵1g当りのアレルゲン量は、長男の布団で9.6-43.1μg、長女の布団では13.3μgであった。変更後、長男の布団は実験期間中(4年間)ほぼ1μg以下と極めて低い値で推移した。長女の布団は変更直後は8.7μgと減少幅が少なかったが2ヶ月後から減少しはじめ、それ以降3年間2μg以下で推移した。2階床は、変更前ダニアレルゲン量が最高で10μgであったが、6月以降は2μg以下に、1階床もレンタルフトンの使用期間を除いて2μg以下を維持した。長男の喘息発作は変更後、林間学校で宿泊した時を除いて消失し、末梢血中好酸球数も減少した。長女は、変更前には毎月喘息発作が起き、その都度プロカテロールを内服したが、コルク床とダニアレルゲンカット布団に変更後、症状は改善し、プロカテロールの内服は不要となった。末梢血中好酸球数も減少した。 症例Bの家族構成は両親と男子2人で、鉄筋コンクリート4階建てのマンションの一室に居住し、長男がダニアレルゲンを主要な感作抗原とする気管支喘息に罹患していた。実験・調査方法は症例Aと同じに行った。変更前の布団のダニアレルゲン量はかけ布団83.9μg、敷蒲団48.5μgであったが、変更後はどちらも1.1μg以下に減少した。一方、変更前の畳のダニアレルゲン量が12.3μgであった畳は、コルク床に変更した直後には2μgになったが、半年後には0.1μgと低い値を推移した。患児のピークフローモニタリング測定値に改善が見られ、末梢血中の好酸球数も減少した。 以上のように、寝具をダニアレルゲンカット布団に、畳や絨毯床をコルク床に交換することによってダニアレルゲン量をWHOが提唱する感作の閾値2μg以下のレベルに維持することができ、気管支喘息の症状改善にも有効であることが明らかになった。
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