学位論文 社員タイプの多様化と人事管理

西岡, 由美

2017-04-24
内容記述
本研究の目的は、社員の働き方の多様化に伴う雇用区分の設定とそれに対応する人事管理を定量分析から探求することにある。特に、正社員と非正社員という伝統的な二区分ではなく、同一企業内の多様な雇用区分の組み合わせを念頭に、組み合わせの違いが人事管理に及ぼす影響、さらには人事管理が経営パフォーマンスに及ぼす影響について検討する。企業は社員を効果的に確保し、育成し、処遇できるように、いくつかの社員グループ(雇用区分)に分け、それぞれに異なる人事管理を適用している。そのため、雇用区分の設定と各区分の人材活用の程度は、人事管理を遂行する上での前提条件となる。しかしながら、働き方の多様化に伴う雇用区分の再編の動きやそれに対応した人事管理について、その重要性は指摘されるものの、実態を実証的に明らかにした研究は少ない。さらに、こうした一連の動きが組織パフォーマンスおよび経営パフォーマンスにどのような影響を及ぼしているかを、体系的に示した研究はない。そこで本研究では、第1に、社員の働き方の多様化に対応するための雇用区分の設定と組み合わせのパターンの実態を明らかにする。企業内の雇用区分の代表的なものとして、正社員と非正社員の二区分があるが、本研究では働き方の拘束性の高い従来型の正社員「無限定正社員」の他に、正社員のなかで限定的な働き方をする「限定正社員」と有期雇用の「非正社員」を代表的な区分として設定し、さらにそれぞれの中で細分化された雇用区分を視野に入れた把握を試みる。第2に、第1で明らかになった雇用区分の設定と組み合わせのパターンに対応した人事管理の在り方を検討する。異なる雇用区分の人事管理を検討する際には、区分間の均衡問題が大きな課題となる。均衡問題では、誰を比較対象とするかによって考慮すべき均衡の在り方が異なるが、雇用区分の多様化は大きく二つの均衡問題をもたらすだろう。一つは、正社員と非正社員に代表されるように、多くの企業で既に導入されている主に雇用契約の違いによる雇用区分間の均衡(between)であり、もう一つは、非正社員のなかのパート、契約社員、嘱託社員のような雇用区分の内部における均衡(within)である。本研究では均衡問題を解決するための第一段階として、主に前者の均衡(between)に着目する。第3に、社員の働き方の多様化に対応した人事管理が組織パフォーマンスや経営パフォーマンスに及ぼす影響を確認する。日本の現状を踏まえると、多様な働き方に対応した人事管理への再編は不可欠であるが、厳しい経営環境の中で企業が市場競争を勝ち抜くためには、新しい人事管理は働く側のニーズを実現するだけでなく、他の経営活動と同様に企業にとって有益なもの、すなわち「Win-Win」の関係を構築するものでなければならない。以上を踏まえ、本研究では複数のアンケート調査のデータを用いて、多面的な観点から定量分析を行った。分析から得られた主な結果は以下のとおりである。第1に、日本企業では、未だ無限定正社員を中心とした人材活用が主流であるが、正社員と非正社員内部の雇用区分の設定と組み合わせは確実に多様化・複雑化している。それに連動する形で、どの区分にどのような内容とレベルの仕事を任せるかといった仕事管理の再編が求められている。第2に、正社員を対象とした分析結果によると、限定正社員はタイプにより特徴が大きく異なり、その結果、同じ限定正社員であっても、どのタイプの限定正社員をどの程度活用するかによって、適用される人事管理とそれが組織パフォーマンスや経営パフォーマンに及ぼす影響は異なる。通常、組織内の公平性への不満は、仕事の類似性が高いほど生じる傾向にあることから、仕事の類似性が低い状況下、つまり職域分離が明確な場合には均衡の比較対象は同じ雇用区分の社員にとどまり、無限定正社員をはじめとする他の雇用区分との均衡問題への配慮の必要性は低下する。さらに均衡への配慮の程度に応じて、企業が限定正社員に行う人事管理上の対応として、①無限定正社員との均衡に配慮した人事管理(基本給、基本給以外)の適用、②区分間をつなぐ転換制度の整備、③異なる人事管理の適用が示唆された。第3に、非正社員の研究結果より、正社員と非正社員、さらに非正社員グループ間の職域分離の状況が多様な非正社員の人事管理の在り方に影響を及ぼすことが明らかになった。またパートは正社員との人事管理制度の均衡処遇は経営パフォーマンスの向上につながるが、契約社員は、正社員との均衡処遇と経営パフォーマンスとの間には何ら関係性が確認できなかった。これは同じ非正社員であるが、パートの場合には正社員との職域分離が曖昧であるのに対して、パートに比べて高度な専門業務に従事する傾向にある契約社員の場合には、正社員との職域分離が明確であり、均衡への配慮の必要性が低いことを示している。つまり、非正社員の人事管理に関する先行研究の多くは、正社員との均衡処遇の重要性を指摘しているが、多様な非正社員の人事管理を考える際には均衡問題に加えて、各非正社員グループが担う仕事の範囲をどのように設定するのかといった正社員や各グループ間の職域分離が重要な鍵となる。これらの分析結果から、同一企業内の雇用区分とその組み合わせの多様化に対応した効果的な人事管理を構築するための重要な視点として、「均衡処遇」「職域分離」「転換制度」の3つが導出された。雇用区分の多様化に対応した人事管理の在り方には、2つの可能性が考えられる。一つは、均衡問題の複雑さを回避するために雇用区分間の職域分離を進め、それを前提とした分離型の人事管理を構築することである。ただし、この際に注意しなければならないのは、たとえ一部の雇用区分間であっても職域分離が曖昧な場合には、それらの雇用区分間だけでなく、同一企業内の他の雇用区分間の均衡問題にも影響が波及する可能性がある。そのため分離型の人事管理を採る場合には、企業内の全ての雇用区分の職域を明確にし、全ての雇用区分間で職域の重なりがないようにする必要がある。もう一つは、複雑化する均衡問題を前提に、その複雑さに対応可能な、つまり多様な雇用区分間の均衡に十分に配慮した統合型の人事管理を構築することである。異なる区分間の公平性を担保した人事管理を構築するためには、人事管理のどの部分で同じものを適用し、区分の違いに対してどの部分で差を設けるかの検討が必要となる。研究結果からは、基本給とそれ以外の部分での二つの対応方法がみられた。最後は、雇用区分の多様化に対応した効果的な人事管理を構築する上で、転換制度(キャリアルート)をどのように設定するかである。明確な職域分離の下で転換制度を導入することは、却って組織内の混乱を招く恐れがあり、転換制度をどのように設定するかは人事管理の効果に大きく影響する。そのため、均衡処遇や職域分離の問題と合わせて転換制度を検討する必要がある。
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