学位論文 集団による問題解決パフォーマンスと創造的パフォーマンスに関する実験社会心理学的研究

飛田, 操

2016-06-29
内容記述
本論は,集団による問題解決パフォーマンスと創造的パフォーマンスの特徴について,主として集団成員の間の等質性・異質性がもたらす影響から検討した。第Ⅰ部では,客観的な正解が存在するが,その解が自明ではない課題にたいして,集団が正解に到達するかどうかをパフォーマンスの指標としたときの集団によるパフォーマンス,いわゆる集団問題解決について中心に検討した。第1章では,成員の間の等質性・異質性が集団による問題解決パフォーマンスに及ぼす影響について,過去研究を展望し,議論を整理した。そして,多様な成員から構成される異質性の高い集団は,潜在的には優れた問題解決パフォーマンスを示す可能性が高くなることが明らかにされた。しかし,一方で,このような多様な成員からなる異質性の高い集団においては,成員相互のコミュニケーションや共通理解の困難さが高まり,情緒的魅力や集団凝集性が低減する可能性も高まり,あるいは,成員の間に対人葛藤が生起する可能性が高まることが示唆された。そして,これら対人関係にかかわる問題が,集団による問題解決パフォーマンスに抑制的に影響する可能性があることが考察された。第2章では,解の自明性が低く,成員にとって新奇性の高い課題である「デザート・サバイバル」課題を用いて,成員の間の等質性・異質性が集団による問題解決パフォーマンスに及ぼす影響について,看護職を対象として実験的に検討した。4名集団18グループを,集団討議前の個人レベルでの解答の一致の程度に基づいて,等質性の高い集団と,異質性の高い集団とに分類した。そして,これらのふたつの群によって,集団による問題解決パフォーマンスが異なるかどうか検討した。その結果,等質性の高い集団より,異質性の高い集団による問題解決パフォーマンスが有意に優れていたことが示された。この結果から,新奇性の高い課題における異質性の高い集団の優位性が示唆された。第3章では,クイズ形式の課題を用い,課題の困難度の高低によって,成員の間の等質性・異質性が集団による問題解決パフォーマンスに及ぼす影響が異なるかどうかが検討された。大学生を対象とした実験が行われ,4名集団17グループのデータが分析の対象とされた。集団討議前の成員個人の組み合わせによる解答の一致の程度に基づいて,等質性の高い集団と異質性の高い集団とが分類された。そして,これらのふたつの群によって,集団による問題解決パフォーマンスが異なるかどうか検討した。分析の結果,個人レベルでの正答率が高い低困難度課題にたいしては,等質性の高い集団と異質性の高い集団の問題解決パフォーマンスに違いはみられなかった。これにたいして,個人レベルでの正答率が低い困難度が高い課題にたいしては,等質性の高い集団より,異質性の高い集団のほうが優れたパフォーマンスを示す傾向がみられた。この結果は,成員の間の等質性・異質性が集団による問題解決パフォーマンスに及ぼす影響が,集団が取り組んでいる課題の困難度によって異なることを示している。第Ⅱ部では,新しいアイディアや創造的なアイディアの生成を集団によるパフォーマンスの指標としたときの集団によるパフォーマンス,いわゆる集団創造性について検討した。第4章では,3名集団を対象とした実験により,成員の間の多様性が集団の創造的活動に及ぼす効果が検討された。大学生および短期大学生 60名が実験に参加した。実験課題としてUnusual Uses Taskが用いられた。本実験では,集団が潜在的に考え方の多様さを持っている程度(集団成員のアイディアの多様性)を事前の個人課題の結果に基づいて分類し,多様性が集団の創発性,コミュニケーション・プロセスに及ぼす影響を検証することを試みた。しかしながら,集団の創発性に関しては,いずれの指標に関しても集団成員のアイディアの多様性の有意な効果が検出されなかった。第5章においては,成員の間のアイディアの多様性と類似性の相乗効果モデルが提出された。成員の間のアイディアの多様性と類似性の相乗効果モデルの基本的な考え方は,次のとおりである。「集団の持つ多様さの素地がいかに高かったとしても,成員それぞれの発想があまりにもかけ離れていれば,成員相互のコミュニケーションや合意形成が困難になったり,成員相互に心理的抵抗や葛藤を生む可能性が高まったりして,多様な発想が触れ合うことによって新規な発想が生まれる可能性が少なくなる。一方で,成員相互の個人創出アイディアの多様性が低い場合は,その「多様でない」アイディアの類似性が成員間で高ければ高いほど,お互いに他者のアイディアから新しい発想への「気づき」が得られる可能性が減少することが予想される。これらのことから,「集団成員のアイディアの多様性と類似性は,相乗効果を持つことによって初めて,集団に良好な創造的パフォーマンスを発揮させる可能性がある」。このモデルの妥当性が3名集団を対象とした実験により検討された。大学生および看護系専門学校生 168名が実験に参加した。各実験参加者は 56組の3名集団にランダムに割り当てられた。実験課題は,Unusual Uses Taskであった。創出されたアイディアにたいして,集団成員のアイディアの多様性と類似性を要因とする2要因分散分析をおこなった。その結果,斬新さと面白さについては多様性の主効果と類似性の主効果が,実用性については多様性の主効果の傾向と類似性の主効果が見られた。いずれも,成員の間のアイディアの多様性が大きいほど,そして,類似性が高いほど,集団は創造的なパフォーマンスを示していたことが明らかになった。次に,創発されたアイディアのうち,3つの基準のいずれか1つでも平均値を上回るアイディアを「創造性の高いアイディア」とみなし,その数をカウントして集団創発性の指標とした。この指標を従属変数とし,集団成員のアイディアの多様性と類似性を要因とする2要因分散分析をおこなった。その結果,多様性の主効果と類似性の主効果が見られた。いずれの値を指標とした場合にも,多様性高群の方が低群よりも高い集団創発性を発揮しており,また類似性についても,高群の方が低群よりも集団創発性が高かった。これらの結果は,成員の間のアイディアの多様性と類似性の相乗効果モデルに妥当性があることを示していると考察された。第6章では,成員の間のアイディアの多様性と類似性の相乗効果モデルの妥当性について,大学生2名集団を対象とした実験で検討された。大学生80 名が授業の一環として実験に参加した。各実験参加者は男女別に合計40 組の2 名集団にランダムに割り当てられた。39 組を分析の対象とした。実験課題は,Unusual Uses Taskであった。実験の結果,創出アイディア数や創造的なアイディア数,そして,斬新さの高いアイディア数にたいしては,集団の多様性が効果を持つことが示された。また,「面白さ」のなかで最も高く評定されたアイディアにたいしては,集団の多様性と類似性の相乗効果が確認された。第7章においても,集団による創造的パフォーマンスに及ぼす多様性と類似性の相乗効果を検討した実験が報告された。ここでの課題は,すでにある特定の対象にたいして,新しい機能や価値を付け加えるという改良的な創造性にかかわる課題であった。この実験は,2(集団成員のアイディアの多様性)×2(集団成員のアイディアの類似性)の要因計画であった。123名の大学生が実験に参加した。実験参加者はすべて女性であった。参加者はランダムに41の3名集団に割り当てられた。集団創発性の値にたいする2要因の分散分析の結果,集団の類似性の主効果が有意となり,類似性高群が類似性低群よりも創造的なアイディアをより多く生み出していた。また,類似性高条件において,多様性低群よりも多様性高群のほうがより創造的なアイディアを数多く生成している傾向が示されており。十分に明確ではないが,この結果も,集団成員のアイディアの多様性と類似性がともに高い水準にあるときに集団は創造的なパフォーマンスをする可能性が示唆された。そして,続く第8章では,集団をより創造的にするための介入方法について検討した実験が報告された。四年制大学に在学する64名(すべて女性)が授業の一環として実験に参加した。各実験参加者は学年別に合計32組の2名集団にランダムに割り当てられた。30組を分析の対象とした。実験課題は,Unusual Uses Taskであった。相互の個人レベルでのアイディアの相違点に注目させる多様性注目条件と,相互のアイディアの類似点に注目させる類似性注目条件の実験操作が行われた後,集団によるアイディア創出が行われた。集団創発性については,まず評定した3基準のいずれか1つ以上が平均値を上回るアイディアを「創造性の高いアイディア」とみなし,その数を従属変数として検討した。分析の結果,斬新さと面白さについては有意な差が,実用性については有意に近い差が認められ,いずれも多様性注目条件のパフォーマンスの方が類似性注目条件より創造的であるという結果が示された。また,各ペアの創造性最高パフォーマンスについても検討したところ,斬新さで有意な差が,面白さで有意に近い差が見られ,ここでも多様性注目条件におけるパフォーマンスの優位性が示された。続く第Ⅲ部では,これまでの研究を要約し,研究の意義が考察された。そして,今後の展開の可能性が議論された。
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http://glim-re.glim.gakushuin.ac.jp/bitstream/10959/3952/2/ref_abstract_O164.pdf

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