Thesis or Dissertation インデノピラゾール化合物の合成とがん細胞の低酸素応答および増殖に対する阻害機構の解明

峯岸, 秀光

2015-06-10
Description
研究背景正常組織では血管網が発達しているため栄養や酸素が十分に供給されているが、がん組織ではがん細胞の増殖が血管網の発達よりも速いために血管の発達が未熟となる。また、がん組織で誘導される新生血管網は無秩序で、脆弱なものとなる。そのため、がん組織内に形成された血管は通常組織における血管と比べ働きが不十分となり、栄養や酸素ががん組織に十分に送達されなくなるため、がん組織では低酸素環境が存在している。この低酸素環境下で働くタンパク質としてHIF-1αが知られている。HIF-1αは通常酸素濃度下では水酸化酵素であるPHD(prolyl hydroxylases)によって水酸化される。水酸化されたHIF-1αはVHL(von Hippel?Lindau)E3ユビキチンリガーゼ複合体によるポリユビキチン化を経て26Sプロテアソームによって分解される。しかし、PHDの活性は酸素濃度依存的であるため低酸素環境下においてはその活性が低下し、HIF-1αの分解は抑制され安定化される。安定化されたHIF-1αは細胞内で恒常的に安定発現しているHIF-1βと二量体を形成することで転写のコアクチベータであるp300とともに遺伝子上の低酸素応答領域であるHREs(hypoxia response elements)に結合し、遺伝子の発現を誘導する転写因子として働く(Figure 1)。HIF-1αによって誘導される遺伝子発現はがん細胞の増殖、解糖系によるエネルギー産生、薬剤耐性、血管新生などを亢進させるため、がんの悪性化にHIF-1αが深く関与していると考えらFigure 1. HIF-1αタンパク質の分解および安定化経路れ、実際に多くの腫瘍内においてHIF-1αの過剰発現が確認されている。そのためHIF-1αはがん治療の分子標的として注目されており、その転写を抑制する阻害剤の開発が行われている。しかし、報告されているHIF-1α阻害剤の中には作用機序が明らかになっていないものも多く、HIF-1の転写制御機構には未解明の部分があると考えられる。以上の事から、本研究ではHIF-1を標的とした阻害剤の開発だけでなく、その詳細な作用機序の解明を行うこととした。インデノピラゾール骨格を有するHIF-1阻害剤の開発と生物活性評価当研究室ではVEGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるAAL993、SU5416、KRN663がHIF-1転写阻害活性を示すことを既に報告している。また、VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤としてインデノピラゾール化合物を報告している。この2つの報告から、インデノピラゾール化合物もAAL993など他のVEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と同様にHIF-1転写阻害活性を示すのではないかとの仮説を立て、研究室のインデノピラゾール化合物ライブラリーを用いたHIF-1阻害剤のスクリーニングを行った。その結果、新たなHIF-1阻害剤としてGN02707を見出した。しかしながら、インデノピラゾール化合物GN02707はFigure 2に示すように、化合物1からのアセトフェノンとの反応によるトリケトン体2への合成において収率が10%程度と低く、さらに、トリケトン体2からインデノピラゾール骨格を形成する際、位置異性体が生じるため単離・精製の点で問題があった。そこで類似の骨格を持ち、構造展開の容易なインデノピラゾール化合物4に着目した。この構造は化合物5と6からワンポットで合成することができ、2つのユニットをそれぞれチューニングすることで構造の多様化を効率的に行うことができる(Figure 2)。そのため、化合物4を基本骨格とした誘導体を合成し、HIF-1阻害活性に対する構造活性相関研究を行うこととした。Figure 2. GN2707と化合物4の構造および合成スキームの検討インダノン誘導体とフェニルイソチオシアネート誘導体に対してリチウムヘキサメチルジシラジドとヒドラジンを作用さることで、ワンポットでR1またはR2に置換基を導入したインデノピラゾール化合物を合成した。合成したインデノピラゾール化合物のHIF-1転写阻害活性評価は低酸素環境下(酸素濃度1%)においてHREルシフェラーゼ安定発現HeLa細胞を用いたレポータジンアッセイ用いて評価し、細胞増殖抑制作用はMTTアッセイによって行った。活性評価の結果をTable 1 に示した。R1に置換基を導入した化合物はHIF-1阻害活性を全く示さなかった。しかし、興味深いことに化合物4cが非常に強力な細胞増殖抑制作用を示すことが明らかとなった。一方でR2に置換基を導入するとHIF-1阻害活性を示し、特にエチレンジオキシ基を導入した化合物4lがIC50 = 14 nMと既存のHIF-1阻害剤であるYC-1、CAY10585と比較して約100-1000倍強いHIF-1阻害活性を示した。Table 1. インデノピラゾール誘導体によるHIF-1α転写抑制と細胞増殖抑制作用次に、化合物4lの作用機序の解明を行うためウェスタンブロット、RT-PCR、免疫染色、免疫沈降法による解析を行った。その結果、4lの作用機序はHIF-1αとHIF-1βが二量体を形成した後の段階で作用することでHIF-1転写阻害活性を示していることが明らかとなった。このような作用を持つHIF-1阻害剤は報告例が無く、これまで報告されてきたHIF-1阻害剤とは異なる作用機序を有していることが考えられる。インデノピラゾール化合物による細胞増殖抑制作用に関する構造活性相関研究および作用機序の解析前述のインデノピラゾール骨格を有するHIF-1阻害剤の開発における構造活性相関研究において化合物4cが非常に強力な細胞増殖抑制作用を示すことが明らかとなった。化合物4lや化合物4cのように同一の基本骨格に対して、導入する置換基の種類や位置を変えることで全く異なる生物活性を発現できることから、インデノピラゾール骨格は生物活性物質を開発する際の主骨格として有用であると考えられる。このことから、インデノピラゾール化合物が生物活性に及ぼす作用についての新たな知見を得ることに加え、化合物4cをリード化合物として更なる細胞増殖抑制活性の向上と活性を示す構造を特定するための構造活性相関研究を行い、その作用機序の詳細を解析することを目的として研究を行うこととした。インダノン誘導体とフェニルイソチオシアネート誘導体からR1、R2に置換基を導入したインデノピラゾール化合物を合成し、MTTアッセイにより細胞増殖抑制活性を測定した(Table 2)。Table 2の結果よりインデノピラゾール化合物が細胞増殖抑制作用を示すにはインダノンから誘導される6位のメトキシ基が必須であり、アニリンから誘導される3’位に置換基を有することも重要であることが明らかとなった。特に3’位にメチルエステル基を有する化合物4vが最も強い活性を示した。Table 2. インデノピラゾール誘導体による細胞増殖抑制作用次に、化合物4vの作用機序解明のためMorphobase profilingとChemProteoBase profilingによる解析を行った結果、微小管に作用することが示唆された。そのため、tubulin重合に対する影響を解析した。その結果、化合物4vはtubulin重合を阻害し、細胞の微小管形成を阻害していることが確認された。これらの結果から、化合物4vはtubulinの重合を阻害することで強力な細胞増殖抑制作用を示していることが明らかとなった。また、化合物4cは化合物4vとは異なる作用機序であることが示唆された。以上の結果からインデノピラゾール骨格は置換基の種類と導入する位置を変換することで様々な生物活性を誘導することのできる非常に有用な骨格であり、更なる構造活性相関研究によって、本研究で示した結果以外に新たな生物活性を示す可能性が十分にあると考えられる。
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