Thesis or Dissertation 擬二次元三角格子局在電子系PD(dmit)2塩の13C NMRによる研究

大塚, 慶

2015-06-10
Description
分子性導体は、圧力や温度を変えることで物性が大きく変化することから注目を集めている。さらに、分子配列によって物性が異なり、化学修飾や原子置換によって物性を制御することができるのも魅力である。本研究では、様々な電子状態が競合していることにより新たな電子状態の発見の可能性を秘めている分子性導体に注目し、その電子状態を解明するためにミクロな測定法であるNMRを用いて研究を行った。研究の対象とした物質は、β’-およびβ -Pd(dmit)2系である。Pd(dmit)2と呼ばれる分子から作られたPd(dmit)2系は、一価の陽イオン1つに対してPd(dmit)2分子2つが結合した物質群で、陽イオン層とPd(dmit)2分子の層が交互に積層した層状物質である。その中でβ’型と呼ばれる分子配列を持つ物質は、Pd(dmit)2分子2つが二量体を形成し、二量体に電子が1個局在する絶縁体である。二量体の配列が二次元三角格子となり、陽イオンを変えることで正三角格子からのずれを系統的に制御することができる特徴を持つ。さらにこの系のほとんどの物質は低温で反強磁性転移するため、擬三角格子反強磁性体として知られている。そこで、2つのテーマに取り組んだ。1. β’-Pd(dmit)2系における反強磁性相の磁気構造の解明最近、この物質系の正三角格子に近い物質が低温まで磁気秩序を起こさないことが発見され、スピン液体として議論されている。通常の物質は、低温では必ず何らかの安定状態に落ち着くはずであるにもかかわらず、その幾何学的配置により安定な状態になれないことを意味している。これはフラストレーションと呼ばれ、理論的にも長く研究されている。実際の物質で実現している例はこれまで見つかっていなかったため、スピン液体の発見は広く注目を集めている。本テーマは、その近傍相である反強磁性相の磁気構造を明らかにすることである。今後、スピン液体を議論する上で重要となってくる情報である。この系は、正三角格子からのずれによってフラストレーションの効果の度合いを変化させることができる特徴がある。そこで、フラストレーションによって磁気構造がどのように変化しているかを知ることが本研究のモチベーションとなっている。β’-Et2Me2P[Pd(dmit)2] 2 (反強磁性転移温度TN=17K)およびβ’-Me4P[Pd(dmit)2]2(TN=42K)について、選択的13C同位体置換を行った単結晶試料に対して反強磁性相における13C NMRスペクトルの磁場方向依存性を測定、解析し、比較を行った。Et2Me2P塩については、反強磁性モーメントの容易軸および困難軸が、それぞれc*, b軸、ダイマー当たり1個存在する1/2スピンのモーメントの大きさは0.28μBで説明できることがわかった。この結果についてはJournal of the Physical Society of Japanに投稿、掲載済みである(参考論文)。さらに、フラストレーションが強いと期待されるMe4P塩について測定を行い、同じモデルを仮定して解析を行ったところ、モーメントの大きさはダイマー当たり0.45 μBであることがわかった。ただし、磁場方向依存性が小さい成分が全体の約1/3存在している点がEt2Me2P塩と異なっている。緩和率の測定から、この約1/3の領域は均一度が高く、均一度が小さい反強磁性成分の振る舞いとは異なっていた。Et2Me2P塩の反強磁性成分はすべて均一度が小さいものであったため、Me4P塩では反強磁性状態とは別の電子状態が共存していると考えている。この違いが本質的なものであるか、試料依存性のある現象であるかは今後解決すべき課題である。この点を除けば、結論として、両塩の反強磁性状態の違いはフラストレーションの効果で説明でき、フラストレーションは局在モーメントの大きさとも相関があることが明らかになった。Me4P塩は従来のスピン波の理論で説明できる大きさ0.45μBであるのに対し、フラストレーション強いEt2Me2P塩では強い量子ゆらぎの存在を意味する0.28μBという値になることが観測されたことは、フラストレーション系の量子ゆらぎに関する今後の理論研究に影響を与えると考えている。2. β-Me4N[Pd(dmit)2]2の圧力下の電子状態の解明Me4N[Pd(dmit)2]2はβ’型とはわずかに異なるβ型と呼ばれる分子配列を持つ。この物質は、圧力下では、金属状態に転移することが知られているが低温30K付近で再び絶縁化する。しかし、圧力下70K付近で伝導面内の抵抗の上昇および伝導面間の抵抗の顕著な上昇が観測されている。この原因として、高温域で等価であった伝導層が低温域で非等価になり、例えば片方が金属層、もう片方が絶縁層になり金属相と絶縁層が共存した状態が実現しているのではないかというモデルが提案されている。そこで、ミクロな電子状態を調べるため研究を行った。測定した圧力は4.5kbarで、90K付近の抵抗異常、30K付近での抵抗の急上昇が観測されている圧力領域である。スペクトルの温度変化を測定した結果、線幅の狭いピークだけで構成されていたものが、約90K以下で線幅の広い成分が出現し、その相対強度が低温で大きくなった。スピン緩和時間においても約90Kで二つの成分が現れ、線幅の広い成分に対応する緩和率が反強磁性絶縁相に向かって発散する振る舞いを観測した。線幅の狭いピークは30K付近まで残っており、90--30Kの温度領域で金属層および絶縁層由来の2つの異なる成分が共存していることがわかった。また、45--30Kでは緩和は1成分で表され2つの環境の間での磁気的な結合の存在を示していた。この現象にはサンプル依存性があり、ほとんど観測できない場合も存在するため、まだ詳細な研究が進んでいない現状であるが、今後、他の測定法による研究が進むきっかけとなる結果が得られたと考えている。
2015-03-31
甲第242号
博士
理学
学習院大学大学院
391
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http://glim-re.glim.gakushuin.ac.jp/bitstream/10959/3687/1/thesis_K242.pdf

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