Thesis or Dissertation In vivo バイオイメージングによる筋細胞内pH制御機構の解明

田中, 嘉法  ,  タナカ, ヨシノリ  ,  Tanaka, Yoshinori

pp.1 - 105 , 2016-06-24 , The University of Electro-Communications
Description
細胞内代謝機構の視点から,筋細胞内pH (pHi) の低下は,筋機能に様々な影響を与えることが報告されてきた.しかしながら,これらの知見の多くは,単離した筋線維を用い,生体外 (in vitro) 環境下での実験アプローチにより検証されている.in vitro 環境下での実験モデルは,細胞内の水素イオン (H+) 緩衝能力や細胞膜に存在するH+膜輸送体の発現量の変化を評価するためには有用である.しかしながら,生体内 (in vivo) 環境下におけるpHi 恒常性は,細胞内に加えて,細胞外環境 (間質及び血液) の影響を受ける.したがって,pHi 恒常性の制御機構を解明するためには,細胞内-間質-血中のH+動態を考慮した上で,筋細胞内H+緩衝作用やH+排出機構を明らかにするための実験モデルが必要である.そこで,本研究ではこのin vivo 環境下でリアルタイムに細胞内H+動態を観察できる in vivo バイオイメージングモデルを小動物 (ラット) を用いて構築し,pHi 制御機構を解明することを目的として,以下の研究課題を設定し,実験を遂行した.本論文は以下の6 章で構成されている.第1 章では,筋収縮のメカニズム及びpHiの恒常性に関する文献研究をおこなった.第2 章では,これまでのpHi の恒常性及び筋発揮張力とpHi の関係におけるin vitro 環境下及び31P-NMR を用いた先行研究の課題点を指摘し,その解決策としてラット脊柱僧帽筋を用いたin vivo バイオイメージングモデルによる研究課題を設定した.第3 章では,研究課題1 としてin vivo バイオイメージングモデルを用いた筋線維毎のpHi 動態を観察するために,安静時pHi 動態観察及びmicroinjection 法を用いた低pH 溶液注入からのpHi 回復動態を検証した.第4 章では,研究課題2 として,筋発揮張力の低下とpHi 動態の関係性について,筋収縮モデルを用いて検証を行った.これら2 つの研究課題により得られた結果の概要を以下に示す.研究課題1 (第3 章):in vivo バイオイメージングモデルとmicroinjection 法を用いて筋線維へ低pH 溶液を注入した際の,溶液注入線維のpHi 回復動態及び,それに隣接した筋線維への影響を同時に測定した.さらに,pHi 恒常性に関与する膜輸送体を阻害した際のpHi 回復動態を検証することで,H+を細胞外へ排出する経路を解明することを目的とした.本研究のin vivo バイオイメージングモデルは,20 分間の観察中にpHi の有意な変化が観察されなかった.このことは,生体恒常性が維持されていることを示している (実験1).そして,このモデルとmicroinjection を組み合わせた検証では,pHi が低下した筋線維に隣接する筋線維においてもpHi の低下が観察された.また,pHi の回復過程には,回復速度の速い過程と遅い過程の二つの過程があることが示された (実験2).そして,回復段階の違いは緩衝機能の違いであると仮定し,H+緩衝に関与する炭酸脱水酵素 (CA) 及び,H+排出に関与する膜輸送体 (乳酸/H+共輸送体 (MCT),Na+/H+交換輸送体 (NHE),Na+/HCO3-共輸送体 (NBC)) を阻害し,pHi 回復動態を検証した.その結果,0-5 分間に生じる速い回復がCA の阻害により,有意に遅延した.また,全ての膜輸送体の同時阻害時に5-20 分間の緩やかな回復が抑制された.このことから,pHi回復動態には様々な緩衝機能が複合的に作用していることが示された (実験3).さらに,周辺線維におけるH+の取り込みを検証したところ,MCT のisoform であるMCT1 及び,一過性受容体カチオンチャネルメラスタチン7 (TRPM7) の関与は少ないことが示された(実験4).研究課題2 (第5 章):筋収縮負荷によるpHi と発揮張力の動態の関連性を明らかにすることを目的として,等尺性 (ISO) 収縮負荷時のpHi と発揮張力について検討した.その結果,pHi と発揮張力の動態の関係には,pHi の低下を伴わない張力低下の局面と,pHi 低下とともに張力が低下する局面の二局面があることが示された (実験5).また,pHi 維持における膜輸送体の関与を検証するため,膜輸送体の阻害下でISO 収縮負荷をしたところ,NHE 及びNBC の阻害時において,pHi が維持される局面が消失したことから,pHi が維持される局面では,NHE 及びNBC によるH+の除去がpHi 恒常性に大きく関与していることが示唆された (実験6).第5 章および第6 章では各研究課題から得られた結果を検討し,本モデルで得られた知見や問題点における解決策を述べ,安静時及び収縮時のpHi 恒常性の経路について統括した.本研究の結論として,in vivo 環境下で筋線維毎のpHi 動態を評価したところ,研究課題1 では,pHi の低下に対して,筋細胞では細胞内緩衝物質によるH+の中和反応に加えて,筋細胞外への排出及び隣接する筋線維のH+の取り込み機構の相互作用を明らかにした.さらに研究課題2 において,pHi と発揮張力の動態の関連性には,pHi の低下を伴わない張力低下の局面と,pHi 低下とともに張力が低下する局面の二局面があり,その機構には複数の膜輸送体が関与することを示した.本研究は,in vivo バイオイメージング技法を用いて,pHi 動態を筋線維毎に評価することに成功し,生体システムの統合的な理解に大きく貢献するものである.
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