Thesis or Dissertation 大規模システムにおける人間とコンピュータの協調制御のための実用モデル化技術の研究

増位, 庄一  ,  マスイ, ショウイチ  ,  Masui, Shoichi

pp.1 - 100 , 2016-03-25 , The University of Electro-Communications
Description
交通システム、エネルギーシステム、物流システムなど大規模社会システムは、コンピュータの発展により不可欠なインフラストラクチャとして定着し、社会生活に多くの利便性を提供している。このような大規模社会システムを安定的に運用していくには、システムが抱えている多くの目的や制約をバランスよく均衡させ、かつ効果的な手段で安全かつ効率的な運用を実現する必要がある。このためには、総合的な判断力に優れた人間と高速な計算力で状態把握や将来予測を行うことができるコンピュータをうまく協調させることが必須となる。本論文では、この人間とコンピュータの調和のとれた協調を実現するために必要なモデル化技術に関して行った実用化研究について述べる。人間とコンピュータの協調において特に重要なものは、限られたセンサー情報からでもコンピュータがシステムの全体像や稼働状態の可否などを的確に推定し、人間にその結果をタイムリーに知らせることで、総合的に的確な制御判断を行えるようにすることである。そのため、本研究では、「何が起こっているかを知らせる」という観点からプラントの状態を推定する物理モデル、「今後どのように変化するかを知らせる」という観点から、自己回帰型自律分散制御モデル、「熟練者のやりかたを知らせる」という観点から、システム制御向けエキスパートシステムモデル、という人間協調のための実用モデルの開発を行い、それぞれ下水処理システム、多段ダム制御システム、高炉操業システムに組み込み、実用に供した。本論文ではこれらの取り組みを以下のような観点から3つにまとめた。・見る制御:見えないプラントを「見える化」する可視化型協調技術・推し量る制御:目隠しされたプラントを自律的に制御する予測型協調技術・経験を活かす制御:プラント操業のための人間ノウハウを活用する知識型協調技術本論文は以下のように構成されている。第一章は序論として、本研究の目的とその位置づけを述べる。第二章では、本研究の主内容である大規模システム制御およびそのためのモデル化技術に関して、これまでのシステム制御技術の歴史やモデル化状況について概説し、コンピュータによるシステム制御における制御モデルの重要性およびその人間協調の必要性について考察する。第三章は見る制御、すなわちセンサーでは見えないプラントをモデルによってビジュアルにすることで、コンピュータが人間の現状把握をサポートするという形の協調について論じる。人間オペレータにとって、プラントの現状を正確に把握することは、制御の安定化のための必須の要件である。しかし多くのプラントではセンサーの種類や数の制約によってその要件が満たされない。数少ないセンサーデータからプラントの現状を推測できるビジュアルモデルの開発が強く望まれる状況にあった。本研究では、人間にとって理解しやすい物理現象に立脚したプラントモデル化に取り組み、プラントの動特性を単純な個別の物理過程の組み合わせによって模擬するという全く新しいラグランジュタイプのモデル化手法を開発した。具体例として下水処理場を取り上げ、曝気槽と最終沈澱池の状況をビジュアルに確認できるモデルを構築した。このモデルは実際の大規模下水処理場に適用され、オペレータの視認性が向上することで処理場操業の安定化、水質改善に役立った。第四章は推し量る制御、すなわち相互に孤立したサブプラントの自律的制御の際に必要となる個々のサブプラントの動態の将来予測を人間にタイムリーに提供するという形の協調について論じる。大規模システムは、いくつかのサブシステムの集合体として認識され、サブシステム間は比較的緩い結合によって関係づけられるという形をとることが多い。通常はサブシステム間の調整は上位の意思決定者によって行われるが、これらが機能不全になった場合に対して、個々のサブシステムが単独で運用を行いつつ、全体の系が不安定にならないような制御モデルを備えておく必要がある。具体例として1つの水系に連接して置かれたダム群の緊急時制御を取り上げる。災害時の通信線の途絶などの事故が発生した場合は、各ダムでは自己測定可能な水位など限られた情報をもとにそれぞれの放流量を決める必要が生じる。このような状況下でも安定した制御を行うために、環境同定のモデルを常にコンピュータ内でアップデートし、緊急時にはそのモデル結果に基づいて制御を行う、という環境推定型制御モデルを案出した。実水系のダム群にこのモデルを適用し、集中制御とほぼ同等の制御が実現できることを確認した。各ダムのオペレータは、コンピュータが予測した推定流入量や放水量推奨値を参照しつつ、緊急時に対応した運転制御を行えるようになった。このモデルは緊急時バックアップモデルとして、実水系の多段ダム制御系に組み込まれている。第五章は経験を活用する制御、すなわち人間の経験知識やノウハウによって制御されているプラントに関して、熟練したオペレータが提供した制御知識やノウハウをコンピュータがそのまま模擬して制御を行うという形の協調について論じる。制御のための数式モデルが導けず、オペレータが長年の経験に基づいて操業を安定化させているというプラントが数多くある。オペレータのもつ経験をコンピュータに取り込み、日常の操業の安定化を図りたいというニーズが顕在化していた。具体例として取り上げた高炉は人間にとっても安定した操業を維持するのが難しいプラントで、その運転には長年の経験が必要とされていた。そこで、熟練した高炉オペレータがもつ高炉運転ノウハウをモデル化してコンピュータに移植するエキスパートシステム的アプローチを適用することを考え、そのためのモデル構築を行った。このモデル化の目的は専門家である熟練オペレータとの協調的関係を構築し、制御知識自身を日々更新・成長させていけるような手段を提供することにあった。このモデルは大規模製鉄所で実用化され、2つの高炉の日々のオペレーションに活用され、日々成長を続けている。第六章では本研究の成果を総括する。本論文の中心課題で述べた実用モデルはいずれも1980年代に開発したものである。この時代は、コンピュータ資源やセンサーなどが質量とも充実しておらず、その制限のもとでのモデル化上の工夫について論じた部分もある。しかしながら、本論文で述べた、見る制御、推し量る制御、経験を活かす制御を必要とするシステム、プラントは数多く残されており、今後もそれらが抱える問題の解消への必要性は高い。本論文で述べた考え方をベースに現代のコンピュータ資源を活用することで、さらにシステム制御の高度化、効率化を図ってゆきたい。また第六章では、今後の課題として、人間のみでは見つけ出すことができないようなデータの相互関係をマンマシン協調的に導き出す統計的アプローチによる協調について論じた。コンピュータ技術やセンサー技術の進展によって、大量のデータをハンドリングできるようになった現在、データから計算機がモデルを導出し、それを人間が吟味承認するということで、モデルの創成を協調的に行うという形を採ることができる。そこで過去の制御経験のデータの活用という観点から、統計的モデリングをシステム制御の場に持ち込むことを提案した。さらに、データからの制御ルールの創成を、ラフ集合論を用いて行う方法論について述べ、経験を活用する制御で用いることができるIf~Thenルールを導出することができることを示した。これら技術はまだ実用には至ったものではないが、人間とコンピュータの新しい関係を創る方法論として有力であると考えている。システム制御が大規模社会システムの安定運用に効果を発揮する技術開発にさらに努めたい。
Full-Text

http://ir.lib.uec.ac.jp/infolib/user_contents/9000000847/9000000847.pdf

Number of accesses :  

Other information