学位論文 古典および量子情報理論における状態識別問題の誤り確率の下界に関する研究

久保, 卓也  ,  クボ, タクヤ  ,  Kubo, Takuya

pp.1 - 78 , 2015-09-30 , The University of Electro-Communications
内容記述
通信路符号化問題は1948年のShannonによる通信路符号化定理の導出から、実に様々なアプローチで研究されている。例えば、考察対象となる通信路のクラスとして、シングルアクセスや多重アクセス、古典系や量子系が挙げられる。また、通信路符号化定理以外にもε容量定理や強逆定理、信頼性関数や強逆レートなどが解析の対象として挙げられる。このように、考察すべき様々な対象が挙げられる通信路符号化問題だが、その今根幹は、状態識別問題の誤り確率の評価である。ここで、状態識別問題とは、通信路を通して得られた情報から元の状態を推定、識別する問題である。本研究ではこの状態識別問題における誤り確率の下界とその通信路符号化問題への適用についての研究を行った。ここで、研究内容は1)シングルアクセス通信路、2)多重アクセス通信路、3)一般化Poor-Verdu不等式の拡張という3つのテーマに大別される。以下順に説明する。 シングルアクセス通信路 1994年、VerduとHanは情報スペクトル的な古典シングルアクセス一般通信路における一般公式を導いた。その証明はある値(通信路容量)より小さな符号化レートならば目的を満たす符号が存在するという順部分(direct part)とその値より大きな符号化レートでは目的を満たす符号は存在しないという逆部分(converse part)の2つに分けられる。この逆部分で本質的な役割を果たすのがVerdu-Han不等式である。また、それと同時期の1995年にPoorとVerduは、古典シングルアクセス一般通信路における信頼性関数の上界の導出に適した形をした誤り確率の下界であるPoor-Verdu不等式を導いた。さらに、量子シングルアクセス一般通信路における一般公式が2003年にHayashiとNagaokaによって導かれている。この証明の逆部分で本質的な役割を果たしたのがHayashi-Nagaoka不等式である。この不等式を古典系に制限するとVerdu-Han不等式に類似した不等式が得られる。これら3つの不等式はそれぞれ証明法が異なる。Verdu-Han不等式は情報理論でよく用いられるunion boundを、Poor-Verdu不等式はMAP(Maximum A Posteriori)推定によって得られる誤り確率が最適であるという事実を、Hayashi-Nagaoka不等式はNeyman-Pearsonの補題に基づく論法をそれぞれ用いて証明される。また、これら3つの不等式の中でPoor-Verdu不等式は他の2つの不等式と異なった設定で証明されている。通信路符号化問題では、従来、メッセージが一様分布に従って生成され符号化が単射的であるモデル【Setting 3】を仮定しており、Verdu-Han不等式とHayashi-Nagaoka不等式は実際その設定で証明されている。しかしながら、情報理論以外の分野でも考察される状態識別問題では一般の送信符号上の確率分布が仮定され【Setting1】、Poor-Verdu不等式はその設定で証明された。また、通信路符号化問題において、確率的な符号化を用いたモデル【Setting 2】が考えうる。ここで、Setting 1とSetting 2はそれぞれSetting 3の拡張となっている。本研究では、古典系量子系を問わず、Setting 1においてNeyman-Pearsonの補題に基づく論法を用いて+型不等式と呼ぶ基礎的な不等式が成り立つことを示し、また、Verdu-Han、Poor-Verdu、Hayashi-Nagaokaの3つの不等式が+型不等式から導かれることを明らかにした。さらにSetting 1の+型不等式からSetting 2の+型不等式が導かれることを示し、そこからSetting 2のVerdu-Han不等式とHayashi-Nagaoka不等式を導いた。加えて、量子シングルアクセス一般通信路符号化問題への応用として、量子系で得られたPoor-Verdu不等式を用いて情報スペクトル的な信頼性関数の新たな上界を示した。 多重アクセス通信路 多重アクセス通信路とは複数の送信者と一つの受信者からなる通信路のモデルである。多重アクセス通信路に関する既存研究として、1998年のHanによる古典多重アクセス一般通信路符号化問題における一般公式がある。この逆部分の証明において本質的な役割を果たしたのがVerdu-Han不等式の多重アクセス通信路拡張であるHan不等式である。さらに、2012年にYagiとOohamaはHan不等式よりも強い不等式であるYagi-Oohama不等式を導出している。この様に古典多重アクセス一般通信路符号化問題に関する重要な先行研究はいくつか存在する一方、量子多重アクセス一般通信路符号化問題に関しては目立った成果は報告されていなかった。本研究では、古典多重アクセス通信路においてもシングルアクセス通信路と同様に+型不等式が成り立つことを示した。また、これを量子系へと拡張することにより量子多重アクセス通信路に対しても+型不等式が成り立つことを示し、この+型不等式を用いて量子多重アクセス一般通信路符号化問題におけるε容量域と強逆領域に関する不等式を導出した。一般化Poor-Verdu不等式の拡張シングルアクセス通信路において、Poor-Verdu不等式に関連する不等式として一般化Poor-Verdu不等式がある。この不等式は2012年にChenとAlajajiによって示された不等式であり、1変数パラメータθを用いてPoor-Verdu不等式を拡張したものである。一般化Poor-Verdu不等式はPoor-Verdu不等式と同様にMAP推定による誤り確率に基づいて証明されており、+型不等式から証明できるかは明らかでない。また、量子系に適用可能か否かも不明であった。本研究では、一般化Poor-Verdu不等式に対して理論的な解析を行い、この一般化があるクラスの関数を用いて拡張できることを示した。また、一般化Poor-Verdu不等式の量子系への拡張可能性に関する数値計算を行い、否定的な結論を得た。
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http://ir.lib.uec.ac.jp/infolib/user_contents/9000000821/9000000821.pdf

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