Thesis or Dissertation 不純物置換ダイヤモンドの作製と電子状態観測による物性評価

森, 雅樹  ,  モリ, マサキ  ,  Mori, Masaki

pp.1 - 87 , 2015-09-30 , The University of Electro-Communications
Description
本研究は高濃度B 置換ダイヤモンド(BDD) 及びAl 置換ダイヤモンドADD 試料を作製し、それらの電子状態を分光学的に明らかにすることにより元素置換ダイヤモンドの超伝導発現機構に関する知見を得ることを目的とする。高濃度B 置換ダイヤモンド(BDD) で発見された超伝導は、B 置換により供給されたホールがフェルミ準位における状態密度N(EF) を増加させ、母物質であるダイヤモンドの高いデバイ温度と組み合わされることで発現するBCS 型超伝導であると考えられている。従って、BDD の超伝導転移温度Tc はダイヤモンド中のB 濃度の増加により上昇する。しかし(111) 方向に成長をさせた単結晶試料では8 K 程度までTc が上昇するが、(110) 及び(001) 試料では4 K 程度でTc は飽和することがわかっている。これは、結晶成長方向によりキャリアの生成効率が異なることが原因であると考えられている。つまり、B の水素化合物やクラスターがキャリア生成を補償するというモデルで、軟X 線吸収分光法や核磁気共鳴実験の結果はこれを支持すると考えられる。BDD における超伝導の発見以降、高い共有結合性を持つSi やSiC に不純物を高濃度置換することが試みられ、超伝導転移することが確認された。一方、ダイヤモンドではB 以外の不純物では超伝導転移は確認されていない。第一原理計算によれば、高濃度Al 置換ダイヤモンド(ADD、Al濃度1.56 at%) のバンド構造はBDD と同様に高いN(EF) を持ち、最外殻準位であるAl-3p とC-2p が強い混成を形成することを示唆している。ADD のEF 近傍の電子状態はBDD のようにリジッドバンド的ではないが、その電気的・磁気的特性に興味が持たれる。しかし、高濃度ADDの作製報告は未だない。本研究ではこれらを背景として、高濃度BDD 及びADD 試料を作製し、EPMA 及びXPS により電子状態の側面からその物性評価を行った。BDD においては効果的なキャリア供給の妨げとなるクラスター等の発生が開始されるB 濃度を解明することを目的に、試料作製及び電子状態観測を行った。試料作製には無機材研型MPCVD装置と固体ターゲット及び気体ソースを併用し、作製試料のB 濃度が0.1 1.4 at% であることをラマンスペクトルおよびEPMA 定量分析により確認した。EPMA 及びXPS により観測されたB-K及びB-1s のエネルギーはB 濃度が0.5 at% 程度までは減少傾向にあり、置換されたB 間の平均距離が短くなっていることを示唆している。さらに、0.5 at% 以上では各エネルギーは飽和傾向にあり、周辺の炭素の周期ポテンシャルの影響を受けていないB が支配的で、B クラスターが発生していることを示唆している。このクラスター発生開始のB 濃度は、単結晶BDD で報告されているTc が飽和するB 濃度とよい一致を示すことから、Tc の飽和はクラスターの発生と強い相関があることが示唆される。EPMA により観測されたC-K の高エネルギー側の構造はC-2p の電子状態の中で、特にフェルミ準位近傍のものを反映している。そのフェルミ準位近傍のC-K線スペクトル強度はノンドープダイヤモンドに比べB ドープに伴い低下する傾向にある。これは置換したB から周囲のC へホールが供給され、C-2p の占有状態の状態密度が減少したことを示しており、ARPES の結果と矛盾しない。強度の減少傾向はB 濃度の増加と共により顕著になるため、ホールの供給量は増加傾向にあるが、単位濃度当たりのホールの供給量はB 濃度の増加と共に低下傾向にある。また、ホールの供給量の傾向はB 濃度が0.5 at% 以上で鈍化しており、炭素の電子状態の変化からもB 濃度0.5 at% 以上でのクラスターの発生がホール生成を補償し、これがTcの飽和の原因となっていると考えられる。ADD においては作製報告のない高濃度ADD の作製とその物性評価を目的に、試料作製及び電子状態観測を行った。試料作製にはBDD と同様に無機材研型MPCVD 装置と固体ターゲット(Al とB の混合物、AlB2) を併用し、作製された試料のAl 濃度は0.6 3.0 at% であることをEPMA 定量分析より確認した。EPMA により観測されたAl-K 及びAl-K は、ダイヤモンド中のAl が金属、炭化物、酸化物のいずれとも異なる状態であることを示した。また、Al-K スペクトルのAl 濃度依存性からは、Al-3p のバンド幅がAl 濃度の増加により拡大することも明らかとなった。XPS により観測されたAl-2p のエネルギー準位も、ダイヤモンド中のAl が金属、酸化物と異なる状態であることを示している。そのエネルギーシフト方向は陽イオン的であり、Al からC への電荷供給を示唆する。一方でEPMA 及びXPS により観測されたC-K 及びC-1s のプロファイルからは、炭素の電子状態はノンドープダイヤモンドからそれほど変化していないことが分かった。観測された各プロファイルを用いてフェルミ準位近傍のAl-3p 及びC-2p のプロファイルの抽出を行ったところ、Al 濃度の増加に伴いフェルミ準位でのAl-3p の状態密度が増加し、高濃度ではC-2p 準位と強く混成していることが確認された。この電子状態の変化は、BDD と非常によく似ており、ADD においても超伝導転移が期待される状況である。しかし、四端子法を用いて測定した4.2 300 K でのAl 濃度1.5 at% の試料の電気抵抗の温度依存性では超伝導は確認されなかった。温度変化の様子は半導体的であり、その活性化エネルギーは約8.2 meV と非常に小さく、この点もBDD の電気抵抗の振る舞いと類似している。超伝導量子干渉計(SQUID) により1.9 20 K の温度領域でAl 濃度2.1 at% の試料の磁化の温度依存性を観測したが、マイスナー効果は観測されなかった。ADD が超伝導転移しない要因は炭素の電子状態の違いにあると考えられる。同程度の不純物濃度において、各不純物ダイヤモンドのC-K スペクトル形状の比較から、BDD ではホール供給によりC-2p の占有状態の状態密度が減少しているのに対し、ADD ではほとんど変化していないことが明らかになった。XPS による観測結果は、Al からの電荷供給を示唆しているが、その供給量は非常に少なく、これが現時点で実現される高濃度ADD が超伝導転移を示さない要因になっていると考えられる。本論文は電子状態の濃度変化を系統的に観測することで、新規物質の物性に関する知見を得ることを示したものである。従来、部分電子状態密度の直接観測は放射光などの大型実験室でX 線分光により観測されてきた。本研究では実験室内での電子線励起蛍光X 線分光法および光電子分光法を相補的に用いて部分電子状態密度の抽出を試みたものであり、有効な固体物性の評価方法を提案した。
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