学位論文 HFドップラ観測設備を活用した非常通信システムに関する研究

渡口, 暢人  ,  トグチ, ノブト

pp.1 - 69 , 2015-03-25 , The University of Electro-Communications
内容記述
2011年3月に起こった東日本大震災において、広域にわたって交通・通信基盤が破壊され、情報流通の途絶が災害対策上の非常に大きな障害となった。そこで大規模災害時の通信手段として、電力供給や他の通信路が確保できない状況にも使用可能な、低電力遠距離通信システムの開発を目指している。電気通信大学では電離圏変動観測用の短波(HF)帯送信局設備およびその受信局を全国に複数所持している。その送受信設備を非常通信手段として活用し、短波帯を用いた低電力遠距離通信を実現する方法の開発研究を行っている。実現には既存のHFドップラ観測設備に低電力長距離通信機能を付加することが必要である。通常時にはHFドップラ観測機能を、非常時には通信機能を優先使用することとする。システムの科学的利用の両立を図って長期維持可能とするところに本システムの特徴がある。本研究では基礎技術開発を目指し、HFドップラ観測電波のID信号を利用して低電力通信実験を行い、その実現性を評価することを目的とした。VHF,UHF帯と違い中継基地局を必要としない短波帯を使用し、電離層反射を利用して遠距離通信ができる特徴を積極的に利用する。既存のHFD送信システムで搬送波と400 Hz離れたID信号の振幅および位相を用いて通信評価を行った。90秒ごとにモールスIDの信号を1 W以下の低電力で送信しているので、その振幅または位相を1 bitと見なして正確に制御し、受信データから40 bphという低速チャンネルとして通信エラーの評価を行った。送信点を調布(東京)、受信点を菅平(長野)、通信距離146 kmにおいて、振幅および位相の検出確率およびC/N対ビットエラーレート(BER)特性を導出し、非常時通信システム構築可能性の評価を行った。短波帯であっても100 km以上の距離間を1W以下の低電力という厳しい条件で通信を行うには、通信速度を下げ狭帯域にすることで受信時のS/Nを向上させることが必要となるが、過去の研究では狭帯域化を図って40 bphという極めて低い通信速度での評価は行われたことがない。本研究では振幅および位相について検出を行った。ドップラスプレッドによる位相変動が大きく、単純な狭帯域化は困難であった。振幅検波ではBERは理論的C/N曲線に近い特性を得た。一方、位相検波では搬送波の情報を利用した信号処理を行うことにより狭帯域化を実現した。さらに電離層反射高度変化による数ミリ秒の伝搬時間の変化に伴う位相回転を150 Hz信号の導入による位相スリップの低減対策を行うことにより、理論特性に近い結果を得ることができた。これらの対策により低電力低速通信時にもC/Nが+5 dBを超えればBER10-2を得ることができ、調布―菅平回線においては低電力での低速通信が可能ということを初めて示すことができた。

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