学位論文 気づきの水平展開をもたらすKYT手法の評価

笹本, 達也  ,  ササモト, タツヤ

pp.1 - 46 , 2015-03-25 , The University of Electro-Communications
内容記述
近年,医療事故への社会的関心は高まっており,医療現場では様々な対策がとられている.その中で,現場で働く「人」に対する安全対策の一つに「KYT-危険予知トレーニング」がある.KYT とは,医療現場でのある場面を写したイラストや写真を用いて,その中に潜む危険を話しあって共有化し合う中で危険への感受性を高めるためのトレーニングである. しかし,医療事故の例は多岐に渡り,そのすべてをKYT にて教育することは難しい.そこで本研究では,KYT 参加者の「気づき」に注目し,横断的教育や解釈レベル理論の考え方をもとに気づきの水平展開の程度を評価した.危険要因を認知した際にその危険要因が危険な理由を意識させることで危険要因が一段階上の概念に一般化され,別の危険要因へ気づきの水平展開が起こるものと考えられる.この効果を明らかにするため,学生と看護師による被験者実験を実施した.実験の準備として既存のKYT イラストシート危険事例にFault Tree 分析を行った.分析した後,基本事象が同じ危険要因と,中間事象が等しく基本事象が異なる危険要因をそれぞれ「基本事象内」,「基本事象間」とし,気づきの水平展開の幅を調べる指標とした.実験方法は教示用のKYT シートで危険要因を学習した後,その危険要因が危険な理由を教示し,課題用のKYT シートを提示してその中に設定された危険要因に気付くことができるかを評価した.また,KYT による危険理由の教示には理由を「考えさせる」,「与える」場合があると考え,比較用の「無し」を加えた3 グループでの比較を行った.学生を対象とした実験では教示方法による差がみられた.危険理由を「与える」ことにより,中間事象を使用した水平展開の効果がみられた.しかし,解析を進めた結果,トップ事象を使用した水平展開の影響を受けている可能性が示唆された.また,全回答数における課題の正解率は「考えさせる」が最も多かったことから,「考えさせる」ことはより深い階層での水平展開において有効である可能性がある.看護師を対象とした実験では,教示方法の違いによる水平展開の効果の差はみられなかったが,回答内容から,教示用シートによる影響ではなく,今までの経験や知識と照らしあわせて回答していることがわかった. 以上の結果より,今回のような基礎的な危険要因の教育において,医療の知識を持つ看護師に対しては水平展開効果がみられなかったが,医療への知識が浅い新人に対して行う基礎的な安全教育は,KYT を実施するよりもむしろ危険要因をその理由とともに直接教えることで,気づきの水平展開を利用した効率的な教育に繋がることが示された.

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