紀要論文 労働力と商人(1)
Labor Power and Merchant Capital (1)

清水, 真志

52 ( 2 )  , pp.1 - 38 , 2017-12-15 , 専修大学経済学会
ISSN:0386-4383
NII書誌ID(NCID):AN00132359
内容記述
従来のマルクスの労働理論では,労働力の価値は,日々の労働力の再生産のために必要な最低生存費の水準に設定されるという見方が根強かった。またこの見方は,労働者の生活を,労働者個人とその家族の内部だけに閉じた個人的消費の過程として描き出すものであった。しかし労働者の生活は,家族以外にも多様なユニットをもつ集団的消費の過程であり,それゆえ労賃にも,日々の個人的消費には直接投下されない「保険財源」の原資が含まれる。労働者の家計貯蓄だけでなく,現物備蓄や生活労働の余力なども,労働者階級全体が積み立てる「保険財源」の一部になる。労働力の価値を規定するのは必要生活手段の範囲であるが,この範囲の変化を促すのは,個人的消費それ自体の変化というよりは,むしろ労働者の生活に占める個人的消費と集団的消費との比率の変化であり,家計所得に占める「保険財源」のポジションの変化である。労働者階級の「保険財源」を起点にして考えると,労働力の売買関係は,今日稼いだ日銭で明日の労働力を養う(今日の生活手段を買い戻す)という単純な現金売買としてではなく,一種の貸借関係として捉え直される。マルクスにも,労働力の売買関係を「労働力の使用価値の前貸」とみなす発想はあったが,その発想はかなり不十分にしか展開されていない。むしろ今日では,労働力の売買関係を一般的な商品の現金売買と同列に扱うことが当たり前になっている。ただそうなったのは,売買関係と貸借関係との違いが,貨幣の支払方法の違いとして狭く理解されてきたことにも一因がある。労働力と労働者とは別ものとはいえ,労働力の過酷な使用は労働者自身をも破損しかねない。それゆえ労働力の売買関係では,賃金がきちんと後払いされるかどうかだけではなく,売った後に労働力がどのように使用されるかも問われる。それは,商品の使用権は買い手に属するという売買の原則を超える関係であるが,といって貸したのと同じものを返すという貸借の原則に服する関係でもなく,労使間における固有の信用関係を形成する。この信用関係に伴うリスクの縮減は,労働力が商品化される上での必要条件になるのである。
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