紀要論文 <翻訳>董晓(暁)媛・安新莉著『無償労働のジェンダー・パターンと貨幣評価 : 中国初の大規模時間使用調査の結果から』
<Translation> Xiao-yuan Dong and Xinli An, Gender Patterns and Value of Unpaid Work : Findings from China's First Large-Scale Time Use Survey

作間, 逸雄[訳]  ,  佐藤, 勢津子[訳]

50 ( 1 )  , pp.117 - 140 , 2015-07-23 , 専修大学経済学会
ISSN:0386-4383
NII書誌ID(NCID):AN00132359
内容記述
女性は,世界中で,無償労働の大きな責任を担っている。無償労働には,明示的な貨幣的報酬なしの,家事,また,家庭での,また,コミュニティ内でのケア(育児,介護,看護)等が含まれる。無償労働は,人間の能力開発や福祉にとって不可欠なものである。しかしながら,その時間制約のために,無償労働は,女性が男性と同じように労働市場に参加することを難しくし,自己管理(self-care)や人的資本投資,人々との交流,政治的参加,リラクセーションといった行動に割ける時間を少なくしてしまう。福祉やジェンダー平等のためのその重要性にもかかわらず,無償労働は,慣例的な所得統計,労働力統計には計上されていない。政策形成の場においても,多くの場合,家事やケアは,当然のこととして「女性の自然な義務」と見られてきた。本稿で,筆者は,2008年に中国ではじめて行なわれた大規模時間使用調査で得られたデータを用いて,無償労働を詳細に検討し,有償労働,無償労働,非労働活動(自己管理および余暇等)の3種類の行動への時間配分に関するジェンダー・パターンを明らかにした。他の多くの国と同様に,中国でも,男性は,女性より有償労働に多くの時間を費やし,女性は,男性より無償労働に多くの時間を費やす。有償労働と無償労働を合計すると,女性の労働時間は,男性の労働時間よりはるかに長いことがわかる。次に,筆者は,<見かけ上無関係な回帰(seemingly unrelated regression, SUR)>の手法を用いて,有償労働,無償労働,非労働活動の間のトレード・オフ関係を推定した。その結果から示されることは,本研究において検討対象とされた,生活上の出来事に伴う変化,経済条件の変化のほとんどすべてが,合計労働時間の男女差を拡大し,男性と比較して,女性が自己管理や余暇のための時間を切り詰めることにつながるということである。こうした発見から,中国社会では,男性と比べて,女性は,有償労働から無償労働へ,あるいは,その逆の労働シフトを行なうことはあまりないことが知られる。しかしながら,女性の中にも多様性がある。教育水準が高いほど,高所得の家庭の出身であればあるほど,賃金が高ければ高いほど,時間使用の自主性(time autonomy)がある。最後に,無償労働の貨幣評価を行なう5つの方法を適用した。用いる方法に応じて,無償労働の貨幣評価額は,中国の公式GDP に対する比率として,25~32%,対最終消費比52~66%,第3次産業の総生産物に対する比では63~80%となる。そうした推計値は,一国の経済的福祉に,無償労働が大きく貢献していることを示すものである。本稿における分析が明らかにしたことは,中国の新市場経済における有償労働と無償労働との緊張関係である。本稿の分析が示すように,有償労働にせよ,無償労働にせよ,一国の福祉に不可欠なものであるが,改革後の中国政府では,有償労働の生産性を改善し,1人あたりGDP の成長を最大化することを最優先の目標としてきた。家事・ケアサービスの供給は,ほっておいてもどうにかなるとみなされたわけである。そのため,市場志向の改革は,政府やその他の雇用主体がそれまでもっていた,女性の再生産役割をサポートしたり保護したりする仕組みを徐々に損なってきた。また,仕事と家庭の両立をいっそう難しくし,女性たちが直面する状況を悪化させた。改革後の発展戦略は,女性に対して公正を欠いたものであり,また,長期的に見て持続可能なものでもない。したがって,よりジェンダー公正な方法で,家事・ケアサービスの社会的に妥当性のある供給がなされることにより,再生産経済に対してよりいっそうの政策的配慮をすることが求められる。
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