Thesis or Dissertation 電界のみによるスピン分離観察を目指したInSb系共鳴トンネルダイオード設計に関する研究

山口, 翔二朗

pp.1 - 55 , 2017-03-25
Description
半導体デバイスは微細化に伴い、動作の高速化、高性能化が実現されてきた。しかし、微細加工技術の限界に加え、ゲート長の短小化に伴い、量子効果の発現によりトランジスタとしての機能が低下してしまうなどの性能向上のための微細化に限界が近づいている。そこで、半導体デバイスの微細化限界を突破する案の一つとして電子スピンの磁性的な特徴を利用した半導体スピントロニクスデバイスの研究が進められている。半導体スピントロニクスを応用する上で、電子スピンの電界による操作と電子スピンの情報の維持が重要な技術となる。しかしこれらの定量的評価に関して未解明な点が数多いため、半導体スピントロニクスの研究は、電子スピンの制御、情報維持技術の確立を目指す基礎的な段階にある。半導体中の電子スピン制御に密接に関わっているのが、電子の軌道運動と電子スピンの間に働くスピン軌道相互作用(SOI: Spin-Orbit Interaction)である。SOIが大きい場合、スピンの情報を維持する時間は短くなってしまうが、電子スピンの向きによるエネルギー的分離が大きく、電子スピンの制御性が高くなる。現状、SOIに関して、デバイス中において電界のみよって発現するSOIの構造依存性が未解明である。また、スピン分離評価には外部磁場を用いてShubnikov-de Haas効果を利用した手法があるが、電界のみによるSOIの定量的評価が困難であることや浮遊磁場の影響を受けてしまう問題がある。本研究では電界のみによるSOIの評価に着目し、III-V族化合物半導体の中で最もSOIの大きいInSbを採用し、測定モデルには、電界のみによるスピン分離評価をするために単一の量子井戸構造をもつ共鳴トンネルダイオード: RTD構造を採用した。RTDに対して電圧印加すると量子井戸内の電子に対してSOIが働き、有効磁場を感じることでエネルギー的にupスピンとdownスピンが分離し、それぞれの共鳴準位が分離する。このようにバンド構造の非対称性から生じるSOIをRashba効果と言い、その大きさをαとして、SOIにより生じるupスピンとdownスピンの共鳴準位のエネルギー差がスピン分離量となる。またRTDでのJ-V特性には、共鳴準位を介した電子のトンネル現象により1つの凸が存在するが、理想的なスピン分離が得られた場合、共鳴準位のエネルギー的分離によりJ-V特性において2つの凸を観察できる。そのため、J-V特性を用いて電界のみによるスピン分離評価をする。先行研究では、選択的なスピンの抽出が可能な三重障壁共鳴トンネルダイオード: TBRTDを用いて電界のみによるスピン分離評価を行い、十分大きなスピン分離が可能であることを示唆した。一方RTDは、TBRTDに比べ、簡易的な作製が可能だが、SOIが小さいことが課題である。そのため実際に電界のみによるスピン分離評価が定量的に行われた事例はない。そこで本研究では、InSb系量子井戸中でのSOIの構造依存性解明と、電界のみによるスピン分離評価が可能な程十分大きいSOIを発現するRTD構造の提案を目的とした。以下に、具体的な検討内容を述べる。最初に、ポワソン方程式とシュレーディンガー方程式のセルフコンシステントな計算からRTDのバンド構造と波動関数を抽出し、RTDの電流密度を計算するシミュレーションプロセスを確立した。本研究では、Rashba効果は、量子井戸内での内部電界から生じる効果と両界面での波動関数の非対称性とバンド不連続から生じる効果を分けて評価している。次に、スピン分離観察可能なRTD構造に関して検討した。検討の対象には、一般的な対称RTD構造と、より大きなSOIを実現するために井戸層にステップ層としてA1InSb層を挿入した非対称RTD構造を採用した。①対称RTD構造ではαの井戸幅依存性、②非対称RTD構造ではαの井戸幅とステップ層の高さ・幅依存性について系統的に検討した。更に、αの構造依存性から大きなαを示す対称/非対称RTD構造でのJ-V特性を求めた。J-V特性の共鳴準位幅: Γ及び電子供給層のフェルミ準位位置依存性からスピン分離観察可能性についての検討を行った。Γに関して、先行研究で実測されたInSb系RTDのJ-V特性のフィッティングから得た5~15[meV]を中心に、スピン分離によるJ-V特性の特徴的な変化が見られるか考察した。以上の検討より、本研究では、J-V特性からのスピン分離評価を行うための一連のシミュレーションプロセスを確立し、対称/非対称RTD構造でのαの構造依存性、電界のみによるスピン分離観察可能な構造、条件を示唆した。本論文は全5章で構成されており、各章の概要は以下の通りである。第1章では、序論として研究背景、研究目的について述べる。第2章では、検討の対象としているRTDの動作原理、III-V族化合物半導体の特徴について述べる。第3章では、スピン分離評価を行う上で用いる一連のシミュレーションプロセスについて述べる。第4章では、対称/非対称RTD構造におけるスピン分離観察可能な構造の検討について述べる。第5章では、総括として本研究のまとめと今後の展望を述べる。
首都大学東京, 2017-03-25, 修士(工学)
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