学位論文 BiS_2系層状超伝導体の本質的な超伝導相図の解明

長坂, 康平

pp.1 - 61 , 2017-03-25
内容記述
1911年にカマリング・オンネスは、水銀において電気抵抗が4.2Kでゼロになる超伝導現象を発見した。それ以降、数多くの超伝導物質が発見されており、より高温の超伝導転移温度を持つ物質の探索や超伝導体基礎研究が世界中で行われてきた。また、超伝導体の応用も進んでおり、様々な分野で実用化され始めている。例えば、超伝導マグネットを使用したMRI診断装置は医療現場で活躍している。また、微弱な磁化を測定できるSQUID磁化測定装置や素粒子加速器などにも超伝導体が使われており、研究開発の分野で活躍している。さらに、新たな交通手段として超伝導リニアモーターカーはJR東海が主導で既に導入が進められている。これらの技術をさらに向上させるためには、より超伝導特性の良い超伝導体が求められており、その為にはより高い超伝導転移温度(T_c)を持った新物質の発見が必要である。1986年に銅酸化物高温超伝導体が発見されたことで超伝導のT_cは大きく上昇し、液体窒素温度77Kを越えた。また、この物質はCuとOから構成される超伝導層と電気的に絶縁体であるブロック層が互いに積み重なっている層状構造を有しており、従来型(電子-フォノン相互作用)の超伝導機構とは異なる超伝導機構が報告されている。2006年には鉄系層状超伝導体が発見された。T_cは当時5Kであったが、後の研究により55Kまで上昇し、鉄系超伝導体も高温超伝導体と認識され、非従来型の超伝導機構が提案されている。このように高温超伝導体である鉄系超伝導体と銅酸化物超伝導体のどちらも層状構造をもつことから、層状構造が高温超伝導や非従来型の超伝導発現のカギであることが推測される。2012年に我々のグループはBis_2系超伝導体という層状構造を有する新物質を発見した。このBis_2系層状超伝導体は、BiS_2層から構成される超伝導層とブロック層の積層構造から成っており、これまでにREO_<1-x>F_xBiS_2(RE: La, Ce, Pr, Nd, Sm)やBi_40_4S_3、さらにSr_<1-x>La_xFBiS_2およびEuFBiS_2などの超伝導体が報告されている。また、超伝導層のBis_2層のSをSeに置換されたものでも超伝導が報告されている。しかし、このBiS_2系層状超伝導体の超伝導機構は未だ完全には解明されていない。本研究では、Bis_2系層状超伝導体の本質的な超伝導相図を解明するために、元素置換によって生じる化学圧力効果に着目し、化学圧力によって変化する物性と超伝導特性の相関を調べた。特に重要な結果として、化学圧力効果と面内disorder抑制の相関を見出し、このコンセプトの元でBiS_2系層状超伝導体の本質的な超伝導相図を解明することに成功した。第一章では、超伝導の始まりから現在に至るまでの歴史と超伝導体の基本的な性質について述べ、高温超伝導体である銅酸化物超伝導体と鉄系超伝導体について説明した。そして、本研究で扱うBiS_2系超伝導体について先行研究や論文等で明らかになっていることも含め詳細に説明した。第二章では本研究で用いた超伝導体の合成方法及び物性評価に用いた測定機器・測定原理について記述した。本研究で扱った超伝導体は全て固相反応法で合成した多結晶試料である。主な評価方法は粉末X線回折や磁化率測定、電気抵抗測定により結晶構造や物性について評価した。第三章ではREO_<0.5>F_<0.5>BiS_2(RE: La, Ce, Nd, Sm)に対し、電気抵抗測定を行った結果及びRE置換による物性の変化を述べている。また、先行研究で明らかになっているLaO_<0.5>F_<0.5>BiS_<2-x>Se_xの化学圧力効果との比較を行い、ブロック層のRE置換と超伝導層のSe置換が同様な化学圧力効果が得られていることが分かった。次にLaO_<0.5>F_<0.5>BiS_<2-x>Se_xとブロック層の異なるEu_<0.5>La_<0.5>FBiS_<2-x>Se_xの両方に対し結晶構造解析を行った。その結果、どちらもSeが置換されていくに伴いBiとCh1サイトの温度因子が減少していくことが分かった。これは面内の化学圧力が上昇するに伴い面内disorderが減少していることを示唆している。これが超伝導発現と相関していると考えられる。次に化学圧力が十分に印加され、面内disorderが抑制されているBiS_2系超伝導体にキャリアドープを行うことで、これまで完全な理解に至っていなかったBis_2系層状超伝導体の本質的な超伝導相図の解明を試みた。用いた試料はLaO_<1-x>F_xBiSSeのx=0~0.5であり、粉末X線回折や磁化率測定、電気抵抗測定を行った。その結果、x=0.1からバルクな超伝導が発現し、x=0.05のわずかなドープでも十分な金属伝導及び超伝導が得られていることがわかった。また、どの試料も面内disorderが低く十分に化学圧力がかかっていることが確認された。これらの実験結果より、Bis_2系超伝導体においてバルクな超伝導を発現させるには少量のキャリアドープで十分であり、ドープされたキャリアを有効に働かせるには面内の化学圧力の上昇による面内disorderの抑制が必要なことがわかった。第四章では、本研究で得られたBiS_2系超伝導体の超伝導特性や物性、化学圧力効果についてまとめ、今後のさらなるBiS_2系層状超伝導体の超伝導発現機構を解明するために必要な課題を提示した。
首都大学東京, 2017-03-25, 修士(工学)
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