Thesis or Dissertation 類似構造を有するアゾ化合物の遺伝毒性と立体構造の比較による、遺伝毒性につながる立体化学構造の解明

大岡, 正人

pp.1 - 35 , 2017-03-25
Description
【序論】近年多くの合成化合物が食品や衣類等の工業製品に使用されている。合成化合物の中には発がん性が疑われているものも少なくない。それらの化合物の安全性試験にはサルモネラ菌を用いたAmes試験や動物細胞を用いた小核試験等が行われている。しかし、これらの方法では化合物によってどのような損傷が誘導されるのかまでは特定することは出来ない。損傷の種類を特定するため、DNA損傷の種類をDNA二本鎖切断、DNA一本鎖切断、鎖間架橋、塩基損傷の4種に分類した。DNA二本鎖切断は最も重篤な損傷であり、修復されないまま細胞内に残ると細胞死や細胞のガン化を誘導する。この損傷はRad54等による相同組換えの経路やKu70等による非相同末端結合の経路によって修復される。当研究室ではニワトリBリンパ球細胞DT40においてそれぞれのDNA修復経路が欠損した細胞を作製し、化学物質の遺伝毒性試験法を開発してきた。この方法では、特定の化学物質に暴露した後の生存率低下をDNA修復経路の変異体と野生型の間で比較し、変異型細胞が野生型に対して有意な生存率低下を示した場合、その化合物はDNAを損傷すると結論できることを原理としている。この方法では、高感度かつ偽陽性を避けて遺伝毒性を評価することが出来る。また、この方法を用いることで化合物がDNA損傷を誘導するかどうかのみだけでなく、どのような損傷を誘導するかまで調べることが出来る{1}。これまで個別の化合物の毒性に関して、様々な方法で遺伝毒性は検討されてきたが、遺伝毒性を示す化学物質のどのような立体化学構造が、遺伝毒性の原因となるのかほとんど理解が進んでいない。本研究では構造式の類似した3種のアゾ化合物に対して上記の遺伝毒性試験を行うとともに、化合物の立体化学構造計算を行い、これらを比較することで遺伝毒性を引き起こす化合物の構造を解明することを目的とした。【結果・考察】本研究では化学構造のよく似た3種のアゾ化合物、Sudan I、Orange G、Orange IIの遺伝毒性を試験した。序論に挙げたそれぞれの損傷を修復することが出来ない変異細胞と野生型細胞に対してアゾ化合物を暴露し、細胞の生存率を比較することで遺伝毒性を調べた。生存率試験は液体培地で細胞を培養し、ATP量によって生存率を測定するATP assay法とメチルセルロース培地で細胞を培養し、生えたコロニーの数で生存率を算出するcolony assay法の2通り行った。どちらの試験でも、Sudan Iのみに対してRAD54/KU70変異体が、野生型細胞に対して有意に強い感受性を示した。RAD54/KU70変異体はDNA二本鎖切断を修復する経路が機能しなくなっているため、DNA二本鎖切断に高感受性を示すことから、Sudan IによってDNA二本鎖切断が誘導されるということが示唆された。さらに、DNA二本鎖切断に蓄積するγH2AXの免疫染色を行い、Sudan I処理時にγH2AXの蓄積が増加することを確認した。続いて、Sudan I処理によるM期の染色体断裂の増加を調べたところ、3時間処理した細胞では染色体断裂の増加が確認されなかったのに対し、16時間処理では染色体断裂の増加を確認した。3時間処理ではG2期の細胞のみがM期に入るため、染色体の断裂がDNA複製に依存して発生するのかを調べることが出来る{2}。この結果からSudan IによるDNA二本鎖切断の誘導は複製を介して起こっているということが示唆された。これらの結果からSudan IによってDNA二本鎖切断が誘導されていることが明らかとなった。化学構造式の似た3種の化合物の遺伝毒性の違いが何に起因するのかを調べるため、理論化学計算ソフトGaussianを使用し、3種の化合物の立体構造を計算した。その結果興味深いことにSudan Iのみが完全な平面構造を取っていることが明らかとなった。また、Orange IIとOrange Gはスルホン基を構造中に含むため、非常に嵩高く、負にチャージしていることがわかった。Sudan IによるDNA二本鎖切断の誘導は複製依存的に起こっているため、Sudan Iが塩基間にインターカレートし、複製フォークが停止・崩壊することでDNA二本鎖切断が生じるというモデルが示唆された。【展望】今回試験した化合物は3種のみであり、DNA二本鎖切断の誘導のきっかけとなる構造が平面構造以外にあるかどうかは明らかとなっていない。様々な化合物について遺伝毒性試験を行い、DNA二本鎖切断を誘導する化合物に共通した構造的特徴を明らかにすることを目的に今後研究を推進する。
首都大学東京, 2017-03-25, 修士(理学)
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