Thesis or Dissertation 低温ヘリウム気体中におけるND_n^+_<(n = 1 - 3)> の移動度

山崎, 達朗

pp.1 - 89 , 2017-03-25
Description
緩衝気体を満たした容器(移動管)に均一電場をかけ,そこにイオンを入射すると,気体分子との衝突を繰り返して熱化したあと,電場の向きに沿って一定の速度で移動する.このように通常のビーム実験では困難な数eV 以下の実験を可能とする手法を移動管法と呼ぶ.移動管を極低温(4.3-77 K)に冷却すると0.5-10 meV 程度の極低エネルギーでのイオン―粒子間の衝突が実現する.この極低温移動管法によって,通常のイオンビーム実験では困難な極低エネルギー領域におけるイオンと気体分子との相互作用ポテンシャルやイオン衝突のダイナミクスが研究できる.これまで様々な単原子イオンや二原子から四原子程度の小さな分子イオンについて,低温He 気体中でのイオン移動度を測定してきた.これまでに測定した中ではH^+, He^+, N^+ を除く単原子イオンについては低電場領域で移動度が分極極限K_<pol>と呼ばれる一定値に漸近していくのに対しN^+_2 を除く分子イオンは低電場領域でK_<pol> を下回る値を取ったり,移動度が極小構造を持つなど,様々な特異的な挙動を示すことが観測された.これらイオン種による移動度の違いの原因として,ポテンシャルの異方性による一時的な回転励起による運動量移行断面積の増大が考えられている.特にOH^+,OD^+ では移動度の極小領域で大きな同位体依存性を観測した.これは,回転定数の違いに起因するものだと考えられている.また移動管では,C^+ など幾つかのイオンでは,基底状態と準安定状態が到着時間スペクトルの上で分離されて検出されており,移動度と理論的な計算との一致も確認されている.これまで同じ原子に幾つかの水素が結合した形の分子イオンとしては,CH^+_n (n = 1 - 2),OH^+_n (n = 1 - 3),OD^+_n (n = 1 - 3),NH^+_n (n = 1 - 4) について移動度の測定を行ってきた.これらの中でNH^+ とNH^+_3 だけは到着時間スペクトルに2 つのピークが観測された.イオン検出部では四重極型質量選別器を用いてΔM = 1 の分解能で質量数を分析して,同じ質量をもったイオンを限定して測定しており,不純物の可能性も考えられないことから,電子的な状態の違い,すなわち基底状態と準安定励起状態の分離が観測されたと解釈した.そこで,本研究ではH をD に置換したND^+_n (n = 1 - 3) について,77 K および4.3 K のヘリウム気体中での移動度を測定した.ND^+ の到着時間スペクトルでは,NH^+ と同様に77 K と4.3 K のどちらの気体温度でも,低電場領域においてピークの分裂が観測された.NH^+ とND^+ はBorn-Oppenheimer 近似の下ではヘリウム原子との間の相互作用ポテンシャルは同一と考えられるので,ピークの分裂は予想されていた.しかし,OH^+ とOD^+ で観測されたような大きな移動度の違いは見られなかった.OH^+ およびOD^+ の移動度の極小は,一時的な回転励起とそれを妨げる極端に強いヘリウムとの相互作用ポテンシャルの異方性によると考えられている.量子化学計算によるとNH^+ およびND^+ とヘリウムの相互作用ポテンシャルは,OH^+ およびOD^+ のものよりは異方性は小さく,一時的な回転励起妨げないため,典型的な二原子分子イオンと同様な振舞をすると考えられる.ND^+_2 では,NH^+_2 では見られなかった到着時間スペクトルにおけるピークの分裂が観測された.ピークの分裂は電子基底状態と準安定励起状態によると考えられるが,この同位体依存性の原因は自明ではない.NH^+_2 の変角振動モードに関する分子内ポテンシャルの理論計算[52] の報告によると.基底状態X^3B_1 はH-N-H の角度θ = 150◦ 付近に極小を持つが,第一励起状態a^1A_1 の極小はθ = 110◦ 付近にあり,2 つの電子状態のポテンシャルはθ = 95◦ 付近で交差しているということがわかる.この励起状態は基底状態とスピン多重度が異なるので準安定状態と見なすことができる.そして,この準安定状態の変角振動に関する基底状態のエネルギー準位を考えると,軽いNH^+_2 より重いND^+_2 の方が零点振動準位が低いはずである.基底状態のポテンシャルとの交差エネルギーよりも零点振動準位が高ければ,交差点を介した脱励起の可能性が高くなるが,逆に低ければ準安定励起状態として長寿命となることが考えられる.また,図??より基底状態のほうが励起状態と比べ,より直鎖に近い構造をとっており基底状態の方がalignment が起こりやすく結果移動度が大きく出ているのではないかと推察できる.一方,ND^+_3 では,NH^+_3 で気体温度4.3 K での非常に低い電場強度のときにのみ見られた,電子状態の分離は観測されなかった.
首都大学東京, 2017-03-25, 修士(理学)
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