学位論文 温泉街における夜間の観光体験提供の現状と課題

湯舟, 佑樹

pp.1 - 66 , 2017-03-25
内容記述
環境省(2015)によれば、日本国内の温泉地の宿泊利用者数は平成17年度から平成26年度までの10年間で1億3661万人から1億2797万人と864万人の減少となった。宿泊利用者数が減少した背景には、宿泊旅行を行う機会そのものが減少しているために温泉地の宿泊客が減少していることが考えられる。他方で、国土交通省(2004)のアンケート調査によれば、温泉地の宿泊客が減少した理由として、「温泉の虚偽表示問題」、「団体客むきに拡大した温泉地の雰囲気を嫌った個人客が離れた」などの回答が得られている。さらにこの調査では温泉地再生に向けてどのような施設・サービスが宿泊客に喜ばれるかなどについても調査を行っており、回答結果では温泉地ならではの夜間帯の過ごし方に関する記述が多くみられる。このように温泉地での夜間のアクティビティが求められる背景には、かつての大規模宿泊施設が囲い込みを進めた結果、観光対象となる商店などの資源が温泉街から消失したことが考えられる。国土交通省(2005)では、温泉街に人通りが少ない状況では、イベントなどソフトな施策を通して街に人を誘い出すことの重要性が説かれている。温泉地での夜間の観光体験が求められる一方で、日本の観光研究においては特定地域における観光体験の提供動機をまとめたものが見られるのみであり、温泉地での研究は進んでいない。本研究は温泉街の夜間の観光体験がいつ提供されているのかを網羅的に把握し、夜間の観光体験に先進的な温泉街においてはその取り組みや意図をヒアリング調査によって明らかにすることで、夜間の観光体験の促進に向けた示唆を得ることを試みたものである。まず、本研究において温泉街と定義された温泉地において、温泉街における夜間のイベントの提供状況を把握するため、2015年に行われた夜間のイベント情報を観光協会などのホームページより取得した。この結果、温泉街での夜間のイベント開催日数は年平均51日となり、8月が夜間のイベントが最も活発に行われることが明らかになった。また、イベントの内容に関しては件数別では年間を通して祭りが最も多く、日数別ではイルミネーションが最も多い結果となった。他方で月別に最も活発なイベント内容を見ると初秋と冬にはイルミネーションが活発になり、4月11月には樹木のライトアップ、7月8月には祭り、6月にはホタルの鑑賞が活発になるなど季節に応じた内容の観光体験が提供されていることが明らかとなった。さらに、イベント内容別に参加費用の有無を見ると、全体の12%のイベントが参加費用が掛かるイベントであった。次に、夜間の観光体験の取り組みや意図などを明らかにするため、夜間の観光体験を積極的に提供している、三朝温泉、草津温泉、白浜温泉、城崎温泉の各観光協会ヘヒアリング調査を実施した。その結果、夜間の観光体験を提供するに至ったきっかけは、来訪者や宿泊客が減少したことであった。客足を回復させ宿泊を促進するために一部で行政からの資金援助を活用しながら夜間のイベントを実施してきたことで、年々夜の観光体験が厚みを持ってきたことが明らかとなった。また、日中の仕事をしながら夜間のイベントを運営することに関する課題や、一時代の宿泊施設の館内消費型の経営戦略などの影響により温泉街の商店が減少し、夜間のイベントを実施しても街中が活性化されないという課題も見られた。他方で夜間のイベントを長年実施してきたことで周辺の商店の夜間営業が開始されたケースも見られた。さらに、4地域ともに夜間のイベントを提供する際に他の事例を参考にしたことはなく、それぞれの温泉街が自分たちで提供するイベントを考え、取り組んでいることが明らかになった。今後、温泉街の夜間の観光体験が促進されるための示唆としては、行政からの資金援助を活用しながら夜間のイベントを実施し、そのイベントを翌年度以降は地元の力で実施し、定着させていくことがまず初めに重要であると考えられる。こうしたイベントを定着させていくことで、恒常的な夜間の観光資源となる商店などの夜間営業を促し、恒常的な資源とイベントとの両輪で夜間の観光体験を宿泊者に提供しながら、イベントの主催者の無理のない範囲で夜間のイベント日数を調整していくことが重要だと考えられる。
首都大学東京, 2017-03-25, 修士(観光科学)
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