Thesis or Dissertation 建築における部分と全体の関係に関する考察および設計提案

水上, 俊也

pp.1 - 113 , 2017-03-25
Description
建築は、部材を組み合わせることで全体が作られるが、部材の形態的固有性や意味の多様性が際立って豊かな造形物である。建築をつくる行為には、部分の自立と全体への統合という矛盾が常に内在しており、その性質こそ建築の魅力であると考える。20世紀初頭のゲシュタルト心理学は、要素の集合が成す全体は、要素の総和以上のものであると説いたが、建築はその典型であると言える。建築における部分と全体という概念は、対象を要素へ還元し、それらと集合体の関係を生み出すことである。全ての建築は何らかの形態を構成し、それを通して様々な建築的意図を表現するため、部分と全体とは、その建築形態に関する基礎理論であり、様々な建築理論において繰り返し議論されてきた。古典建築は様式を確立することで部分の統一を試み、近代建築は形態要素の抽象化とその構成の探求によってこの概念を拡張した。1980年代以後に始まる脱構築思想の顕在化は、機能性、合理性を造形に求める規範的態度を相対化し、部分と全体の概念において重要な転換を引き起こしたが、現代に至ってはその批評的役割は薄らぎ、造形の目新しさを探求する態度のみが顕著になっている。本研究は、建築における部分と全体の概念を再考し、考察から得られた知見を設計提案として応用することにより現代におけるその有用性を示すことを目的とする。本論文は、研究の背景と目的を述べた序論、理論の考察と作品分析をまとめた3つの章、設計提案を示した章、総括としての結論からなる。第一章では部分と全体の関係の基礎概念を整理し、この概念に言及した理論の比較から部分と全体の概念を再考する。形態理論としての部分と全体の概念はゲシュタルト心理学に始まり、R. アルンハイムによって美術、建築へ応用された。建築を全体とした時の部分は、「部屋/ 部屋群/ 領域」とその組成である「部位」の2つの水準を持ち、「階層」を成すことよって、部分の間に、構成される関係と構成されたものの関係の2 つの関係を持つ。これらを順に「構成関係」、「相互関係」と定義し、部分と全体の関係は、各階層が内在するこれらの関係の総体であることを示した。以上の整理を以て「構成関係」、「相互関係」の相関について2 つの理論的観点を比較した。香山壽夫は「構成関係」に準じて「相互関係」が構造化される関係を近代建築に見出したが、倉田康男は部分の自律的な造形行為の存在を指摘し、複数の「構成関係」と「相互関係」の背反する関係を提起した。そこで前者を「調和的関係」、後者を「非調和的関係」と定め、後者が現代建築において顕在化していることを指摘し、「非調和的関係」を階層との関係においてさらに考察した。考察に基づいて「排他的関係」、「並列的関係」、「依存的関係」の3つの分類を定義し、次章以降の観点を整理した。第二章では近代以降の建築理論に着目することで、3つの「非調和的関係」を構築する観点の抽出を行う。「排他的関係」では「部屋/ 領域」の自律的な造形に関わる理論として、L. コルビュジエ、J. スターリング、C. アレグザンダー、原広司、R. コールハースの理論を考察した。「依存的関係」では「部位」の「形状」、「素材」、「内包要素」の自律的な操作に関わる理論として、C. ロウ、R. ヴェンチューリ、槇文彦、H.ヘルツベルハ、青木淳を、「並列的関係」では「部位」に独立した構成関係を構築する操作に関わる理論としてF. O. ゲーリー、B. チュミ、坂本一成、J. ライザー&梅本奈々子を対象としてそれぞれの建築理論を考察し「非調和的関係」の観点を整理した。第三章では、前章において考察対象とした建築家らにより実現した作品を対象とし、全28事例の分析を行う。先述した倉田氏により整理された「構成関係」、「相互関係」の体系を援用し、対象作品における「排他的関係」、「並列的関係」、「依存的関係」の構造を分析した。抽出した構造を手法化するため、構造を分析した「部分」の建築全体における配置関係の類型化を行い、5つの分類に整理した。これら類型と分析した構造との連関から各関係における「型」を得た。第四章では、建築における部分と全体の概念の考察の成果を踏まえて、集合住宅、オフィス、商業、保育所の4つの用途からなる複合建築の提案を行う。そこで、設計過程を用途ごとに独立した設計を行う段階と用途相互の関係を構築する段階の2つに大別した。第一の段階では用途に応じた4 つの部分を定め、「排他的関係」の構築により、各々に固有な場を形成する。第二の段階では4つの部分の間に「依存的関係」、「並列的関係」を導入し、第一段階における構成を相対化することで、関係を多元化させる。各段階においては、第二章で整理した「視点」を以て第三章で整理した「型」の有用性を検証し、手法を応用した設計を行う。結論では、本設計提案が、用途による部分の固有性を保ちながら、部分相互の関係が一元化せずに、用途による部分の領域を超えて関係が重層した全体が構築される設計手法であることを示し、部分と全体の関係の概念の再考が有用であることを明かにした。
首都大学東京, 2017-03-25, 修士(建築学)
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