学位論文 足底部での硬度弁別課題による立位姿勢バランス安定化についての検証 : 介入期間の短縮に注目して

村尾, 絢

pp.1 - 81 , 2017-03-25
内容記述
本研究では,足底部での硬度弁別課題により,立位時の姿勢動揺量が減少するかについて検証した.近年,足底部での硬度弁別課題を10日間実施すると,脳卒中患者や高齢者のみならず若年者においても,立位時の姿勢動揺量が減少するという報告がいくつかなされている(Morioka & Yagi, 2003, 2004; Morioka et al.,2009, 2011; Nakano et al.,2011).硬度弁別課題とは,硬度の異なる5種類のマットを踏み,その硬さを記憶・弁別する課題である.具体的には,1日あたり,硬さの記憶を促す課題を10~15回と,その弁別する能力を評価する弁別精度テストを10回行った.その結果,硬さを弁別する能力は経日的に向上し,さらに,10日の介入後には,立位時の姿勢動揺量が減少することを明らかにした.先行研究の著者らは,足底部での硬度弁別精度の向上により,立位時の身体と環境の相互作用が改善し,結果として姿勢動揺量が減少した可能性があると考察している.しかしながら,立位姿勢に直接寄与する足底部の情報は,圧分布に関する空間情報であり,なぜ硬さを弁別する行為が姿勢制御に関連するのかについては,現状では理論的根拠が乏しい.そこで本研究では,硬度弁別課題がもたらす効果について理論的根拠を見出すことを目的とした実験を行うこととした.先行知見では介入期間を10日と比較的長期に設定しており,1日の介入試行数はたったの20~25回のみであった.こうしたデザインの場合,介入期間の中で実際に課題に取り組む時間は,1日につきわずか10分程度と予想され,それ以外の時間の過ごし方といった交絡因子が結果に影響する懸念がある.そこで本研究では,こうした影響を排除する目的で,介入期間を短縮し,短期間で先行研究成果を再現するために1日当たりの課題試行数を増やした方法を用いて,介入である硬度弁別課題の有効性を明らかにすることを目指した.理論検証という観点から,立位姿勢バランスについて先行研究で評価している姿勢動揺量の大きさ(総軌跡長,外周面積)に加えて,姿勢制御方略(平均パワー周波数)にも着眼した.もし,介入が姿勢動揺量の減少に寄与するとすれば,その背景には,足底部の感度向上により姿勢制御方略が,それまでよりも素早く細やかな調整へ移行すると考えた.さらに,先行研究成果から連想される硬度弁別精度が高いと姿勢動揺量が少ないといった負の相関関係があるかについて,弁別精度テスト正答数と立位姿勢バランスの各項目の相関係数を算出することで検証した.まず実験1では,先行研究と介入の総試行数を揃えたうえで(100試行)介入期間を2日間とし,同様の効果が得られるかを検証した.その結果,硬度弁別精度の向上は示されたものの,姿勢動揺量の減少や素早い姿勢制御方略への移行を示唆する平均パワー周波数の増加は認められなかった.さらに,硬度弁別精度と立位姿勢バランスの関連性も確認できなかった.以上の結果から,介入の量を揃えることで硬度弁別精度自体の向上の可能性は示されたものの,立位姿勢制御への有効性は認められないことがわかった.実験1で姿勢動揺量が減少しなかった理由について,単に介入期間を10日から2日に変更したことが問題だったのではなく,それ以外の条件設定に問題があったと考えた.例えば,課題問の歩行移動や,スポンジマットに立ち上がる動作,硬度弁別を立位姿勢で行うことなどは,足底部へ他刺激を混入させうる.また,弁別する課題では,硬度が分かったタイミングで解答を要求しており,参加者によっては瞬時に解答することで,探索時間が極端に短くなり,探索時間が不足した可能性がある.そこで実験2では,実験1において,結果に影響を与える交絡因子-足底部への他刺激や探索時間の不一致-を排除した課題環境に修正して,介入の即時性効果を検証した.具体的には,1日で行う実験に切り替え,日をまたぐことの影響も排除したうえで,足底部に対する他刺激の混入を軽減するために,硬度弁別課題と立位姿勢バランスの測定を同じ場所で実施できるように設置した.そして,足底部に対する感覚情報を一定量確保するため,スポンジマットの探索時間踏を統一した.その結果,実験1と同様に,姿勢動揺量の減少や平均パワー周波数の増加は認められず,硬度弁別精度と立位姿勢バランスの関連性についても認められなかった.実験1・2の結果において,先行研究で確認されたような介入効果が得られなかった要因の一つとして,べ一スラインとして測定した弁別精度テストの正答数が先行研究と比較すると,高値であったことに着目した(先行研究: 5.2問/10間中,実験1: 6.8問/10間中,実験2: 7.2問/10間中).つまり,課題が易しかったことから探索の必要性が低く,介入効果が出にくかったと考えた.そこで実験3では,スポンジマットを2枚に重ねることで硬度弁別課題の難度を上げ,探索の必要性を高めた条件で介入効果を再検証した.その結果,初回の弁別精度テストの正答数が低下し(5.7問/10間中),さらに介入によって硬度弁別精度の向上が示された.こうした結果は,実験3における硬度弁別課題の難度を上げるための設定が,ある程度うまくいったことを示唆した.しかしながら,やはり姿勢動揺量の減少や平均パワー周波数の増加は認められず,硬度弁別精度と立位姿勢バランスの関連性についても認められなかった.この結果から,探索の必要性を高めることで,顕著に硬度弁別精度が向上することが示されたが,立位姿勢制御への有効性は認められないことがわかった.3つの実験で得られた知見から,介入期間を短縮した場合に,足底部での硬度弁別課題による立位姿勢動揺量の減少は認められないことがわかった.重要な成果として,硬度弁別課題の成績と姿勢動揺量の間には,関連性ないことがわかった.これらのことから,単に硬度弁別精度が向上しさえすれば,それが立位姿勢制御に良い波及効果をもたらすのではないことを示唆するものであり,この課題を用いた介入として課題成績以外の点に着目することの必要性を示している.
首都大学東京, 2017-03-25, 修士(健康科学)
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