学位論文 中国農村部「留守高齢者」の生活実態と支援策に関する研究 : 江西省上饒市余幹県三塘郷劉家村を事例として

何, 夢瑩

pp.1 - 81 , 2017-03-25
内容記述
【問題提起】国際的な解釈では、WHOや国連(1982年)の定義を参照すると、60歳以上の人口が全体の10%、65歳以上の人口が全体の7%を超えた場合に高齢化社会となる。2000年に中国では60歳以上の人口比率は既に10%に達し、高齢化社会に突入した。その後、中国政府は日々深刻化してくる高齢化問題を解決する為に、医療、経済等の面において相次ぐ高齢者支援政策を打ち出した。一方、1980年代から工業化や都市化の進展に伴い、大量の“農民工”が誕生し、農村部では「留守問題」が発生し始めた。「留守問題」の中で子ども達が出稼ぎに行き、農村部に残された高齢者を「留守高齢者」という。都市部の発展に伴い、農村部から都市部へ出稼ぎ若年者が増えてくる。その結果、農村部に残された高齢者も増えてくる。従って、中国高齢化問題の中で「留守高齢者」という特別な対象者が生まれた。その特別な状況に対して、一般の高齢者と違い、より農村部の「留守高齢者」の需要を満たせる政策が必要である。しかし、現段階の高齢者支援政策はまだ「留守高齢者」のことを考えていないだけでなく、高齢者支援政策の実行力も弱い。故に、本研究はまだ特別な対象者になっていない農村部の「留守高齢者」達が一般の高齢者と同じようなサービスや権利を享受できるかどうか、又は既存の高齢者支援政策が「留守高齢者」の本当の需要を満たせるかどうかについて検討することが目的とする。【先行研究の検討】1980年代以前、中国においては、高齢者に関する研究は一切なかった。中国の高齢化は他の先進国より始まった時期が遅いから、高齢者に関する研究も相対的に遅れて出て来た。実際に“高齢化”という言葉が初めて認知されるようになったのは1982年にウィーンで開かれた第一回高齢問題世界大会1で提出されてからのことである。その以後、中国国内の学術研究者達は高齢化問題に対して興味を持ち始め、高齢化問題に関する研究も登場し始めた。その中で、農村部の「留守高齢者」の生活や老後の養老問題についての研究が多い。「留守高齢者」の生活に対する研究は主に「留守高齢者」の経済状況、日常生活や精神状況の三つの面である。子どもの出稼ぎによって、農村部の「留守高齢者」の経済状況や精神状況がより悪くなってくることがあり、日々困難な老後生活を送っているという研究結果があった。また、生活や養老問題以外の社会支援に対する研究もある。研究者達は農村部の「留守高齢者」の養老問題を解決することを提案し、国家的な高齢者支援政策に対する検討も行った。その結果、新型農村合作医療制度の実行が予期の結果と合わない、医療制度の実行力が弱い等問題点を発見した。養老保障制度の中で、新型農村合作医療制度以外の各種類の保障政策の加入率が低く、政策の保障水準も低いと分かった。しかし、農村部の「留守高齢者」の生活が本当にそうなのか、国家的な高齢者支援政策が「留守高齢者」に対して一体どんな役割を担っているのかがまだはっきり分かっていない。故に、既存の研究結果に基づき、農村部「留守高齢者」の生活実態を明らかにすること、また国家的な高齢者支援政策の運用程度を明らかにすることが本論文の目的である。【研究の成果】1)中国高齢化の特徴の解明 世界各国の進展状況と同じように、2000年から中国も高齢化社会に突入した。しかし、中国の高齢化の特徴は規模が大きく、発展スピードが速いということがある。そして、もう一つの大きな特徴は、豊かになる前に高齢化してしまうという点である。従って、ほかの先進国と比べ、中国は高齢化問題を解決するのはより困難になっている。更に、1980年代末から、農村部の若年労働者が都市に移動することによって、農村部では「留守家族」という問題が出て来た。「留守家族」問題の中で子ども達が面倒を見てくれず、農村部に残された「留守高齢者」が生まれた。「留守高齢者」は一般の高齢者と違い、子ども達が側にいなく、いざという時に支援してくれる人もいない。普段は、家の農作業や家事が全て自分で負担し、寂しい時には隣人同士と会話するしかない現状がある。従って、中国の高齢化問題を解決する為には、上記のような特徴を考えなければならない。とりわけ、農村部の「留守高齢者」その実態に相応しい政策を立案する必要がある。2)政策に対する検討及びインタビュー調査の結果 現段階で打ち出された農村最低生活保障制度2、社会養老保険制度、五保供養制度3、新型農村合作医療制度4や“80歳以上”高齢補助制度5等の制度の内容を見ると、どんな支援制度でも農村部の「留守高齢者」は特別な対象者となっていないことが分かった。実際に劉家村の「留守高齢者」達を調査してみると、“80歳以上の高齢者補助制度”の実行力が足りず、上海、北京のような大都市では実行されている高齢者補助制度は劉家村では利用している「留守高齢者」が一人もいない。新型農村合作医療制度(新農合)の加入率が100%にもかかわらず、補助金の申請手続きが煩雑である、補助金額が少ない、重病ではない場合は減免できない等の問題があり、新型農村合作医療制度がまだ不完全であることが分かった。要するに、現段階で実行された新型農村合作医療制度は農村部の「留守高齢者」のニーズを満たすことができでいないと言えるだろう。また、劉家村では社会養老保険制度(新農保)6を享受できる権利を売買する人(1人)が存在している。従って、中国政府は国家の高齢者支援政策に対する管理がまだ十分されていない問題点が分かった。五保供養制度を調査してみると、一般の高齢者が享受できる支援政策が「留守高齢者」が享受できないことがある。従って、既存の高齢者支援政策がまだ農村部の「留守高齢者」の養老問題を解決することはできていないと分かった。今後、中国の高齢化問題を解決する為に、現段階の高齢者支援政策を改善しなければならない。中国の高齢化問題に対して、より完備な高齢者支援政策が必要である。【研究意義】従来の農村部の「留守高齢者」研究には、「留守高齢者」の生活、経済状況や精神状況等に対する研究が多い。本研究は農村部の「留守高齢者」の生活、経済状況や精神状況に限定するのではなく、「留守高齢者」達が利用している高齢者支援政策についても分析した。その視点で、国家的な高齢者支援政策が農村部の「留守高齢者」に対する役割を明らかにした。今回のインタビュー調査を通して、国家的な支援策が実施しているものの、まだ農村部の「留守高齢者」の養老問題を解決することができていないことが分かった。【今後の課題】本研究に、劉家村の「留守高齢者」の生活現状や精神状況だけでなく、国家的な高齢者支援政策についても検討した。検討した結果、国家的な高齢者支援政策は農村部の「留守高齢者」の養老問題をまだ解決できていない状態と分かった。政策の内容や実行力等において、十分ではない所があり、検討し直すべきである。しかし、中国の農村部は数えきれないほどあり、一つ農村部の調査データは中国全体の事情を体表することができない。その為、より多くの農村部を調査し、たくさんの調査データを入手する必要がある。更に、今回の事例調査ではまだ検討できていない支援政策があり、今後その残りの支援政策に対する検討も必要である。
首都大学東京, 2017-03-25, 修士(社会学)
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