Thesis or Dissertation 加熱処理酵母における誘電泳動速度と代謝状態の相関検証

石田, 高広

pp.1 - 100 , 2016-03-25
Description
醸造や燃料合成などのバイオ産業において,品質及び生産性向上の観点から,菌代謝工程の最適化が進められている.しかしながら,現行の定時管理では異常発生時の即時対応が困難であり,工程の最適化に大きな制約を与える.ゆえに,菌体に対する常時管理体制の確立が急務である.現在,微生物試験の公定法は,培養法を基本としている.しかしながら,本法は測定に膨大な時間を必要とする.他に,菌代謝を評価可能な迅速法として,ポリメラーゼ連鎖反応法(polymerase chain reaction:PCR)やフローサイトメトリー法などがある.これらの手法では,DNA増幅や蛍光標識等の菌体に対する前処理が前提となる.また,使用する試薬や機材が高価であり,操作に高度な専門知識を必要とする.現状において,これらの評価法は菌代謝の常時管理に適さない.そのため,迅速かつ簡便に菌代謝状態を監視できる自動化システムの開発が望まれている.誘電泳動(dielectrophoresis;DEP)を利用した電気的計測法は,迅速性や簡便性の観点から有力な菌評価技術として,近年期待が高まっている.DEPとは,不均一電界下において誘電体微粒子が分極し,電界強度の差に応じて泳動する現象である.DEP力は粒子及び媒質の複素誘電率,粒子半径,印加電圧及び周波数に依存する.また,菌体は代謝状態の変化に伴い誘電特性が変化することが報告されている.そのため,DEPカを計測することで菌体の代謝状態を評価することができる.筆者らはDEPカと菌代謝状態の直接的な相関について検討するため,画像解析によるDEP速度計測に着目した.本手法は単一粒子での測定が可能であるため,極微量検体に対して有効である.また,高導電媒質や流体場への応用も見込める.本研究は,DEP速度計測により菌体の代謝状態を,迅速かつ簡便に評価する新たな生体粒子計測システムの構築を目的としている.これまでに,当該システムにおける基本性能を検証するため,加熱処理により膜生理状態の異なる酵母を実験的に調整し,処理温度及び時間に対する酵母群のDEP速度における周波数特性を精査してきた.本論文では,酵母を低温(37-47℃)処理した際の,被熱ストレス時間に依存するDEP速度の変化を詳細に計測した.また,核酸染色剤を用いた蛍光スペクトル強度測定により,菌体の細胞膜状態を生化学的に評価し,膜生理状態とDEP速度の相関を検証した.さらに,コロニーカウント法を用いて,酵母における代謝活性の一つである生育活性とDEP速度の相関を調査した.そして,酵母の微細な誘電特性変化によるDEP変動を数値解析から考察した.本実験装置はDEPデバイス,電気回路系,媒質送液系及び光学計測系で構成されている.DEPデバイスは,電極基板,マイクロ流路及びデバイスホルダからなる.電極には間隔20μmのITO薄膜を用いた.実験手順としては,振幅20Vp-p,周波数100kHz-1MHzの正弦波電圧を印加後,菌体の挙動の軌跡を画像解析により計測し,DEP速度を導出した.対象菌種は,72h培養した出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae,JCM 7255)とし,媒質には0.15MのDマンニトール溶液を使用した.対象菌へのストレス負荷工程として,ウォーターバスによる厳密な温度管理下で加熱を行った.菌体における膜生理状態は,核酸染色(SYTO9及びPI)による蛍光スペクトル強度から評価した.本研究では,加熱処理により膜生理状態を変化させた酵母のDEP速度を計測し,低温(37-47℃)処理における被熱時間に対するDEP速度の周波数特性を精査した.47℃において,加熱処理後の余熱ストレス時間(放置時間)の増加に伴いDEP速度は減少した.各処理を施した酵母に蛍光染色実験を行った結果,処理温度の上昇に伴い酵母の細胞膜損傷度は増加し,余熱ストレスの多寡が膜浸透機能に影響を与えることが分かった.また,37℃での長時間(2h)処理では低周波数帯(50-100kHz)で特に高いDEP速度を示し,膜浸透機能を活性化させた.以上から,亜致死性の低温ストレス及びその余熱により酵母の代謝機能が繊細に変化することが分かった.すなわち,47℃では余熱ストレスの抑制によって,37℃では長時間(2h)加熱によって膜輸送が活性化されたと推察される.本結果は,DEP速度と膜損傷度の相関を示すものである.また,DEP速度が膜輸送及び細胞分裂に関連する代謝機能や酵母の生育活性を反映している可能性がある.更に,DEP速度と誘電特性の相関を定量化するため,細胞電気定数の数値解析を行った.その結果,本実験における周波数領域(50kHz-10MHz)において,細胞外壁,内壁及び細胞質の誘電率はDEP速度に殆ど影響しなかった.一方,細胞膜誘電率は全周波数域のDEP速度を変化させた.すなわち,処理温度変化による全周波数域でのDEP速度遷移が細胞膜誘電率に依存する可能性を示唆している.また,細胞膜及び細胞質の導電率がDEP速度に強く影響することを確認した.特に,低周波域(50-100kHz)における細胞膜の導電率は唯一菌体のDEP速度上昇に寄与した.本結果は,37℃処理のような低周波域で顕著なDEP速度変化が細胞膜導電率に起因するものであることを示唆する.
首都大学東京, 2016-03-25, 修士(工学)
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