学位論文 場所と他者の観光的特性の交互作用が潜在的観光者から見た場所の評価に与える影響 : スライド実験を調査手法として

小川, 真弘

pp.1 - 116 , 2016-03-25
内容記述
観光地は観光者などの人がいることで意味を成すが、観光地などの場所における人の存在は、観光者から見た場所の評価に正負双方の影響を与える可能性が先行研究により指摘されている。また、人と場所の特性の交互作用が観光者による場所の評価に影響を与える可能性が、新谷ら(2015)の研究により指摘されている。さらに、Pearce(1988)の研究では、人の本物性と場所の本物性が観光者のその場所での経験の本物性に交互作用を与え得ることが指摘されている。MacCannel1(1976)の観光地の「フロント」、「バック」の議論やBruner(1994)の4種の本物性の概念より、人と場所の本物性は、それぞれ、人と場所の観光的特性へ負の関係があると考えられる。よって、人と場所の観光的特性がもたらす交互作用もまた潜在的観光者による場所の評価に影響を与える可能性があるが、そのような可能性を実証的に示した研究は見当たらない。以上を踏まえ、本研究では、人と場所の観光的特性がもたらす交互作用が潜在的観光者による場所の評価に与える影響を明らかにすることを目的とする。本研究では、人と場所の観光的特性の視覚化の容易さ等を考慮し、調査対象地を沖縄県那覇市とした。そして、KJ法を用いた首都圏と沖縄県の大学生のそれぞれによるグループディスカッションと先行研究により地元住民と観光者の視覚的特性を明らかにした。そして、那覇市内の観光的特性の強弱がそれぞれ異なると考えられる6箇所で、人が写り込むのを極力排除した写真(以下「人排除」)・地元住民の特性に扮した人のみが極力写り込むようにした写真(以下「地元住民」)・観光者の特性に扮した人のみが極力写り込むようにした写真(以下「観光者」)それぞれを、協力者を準備して撮影し、それらの写真を用いて潜在的観光者による場所の評価をしてもらうためのスライド実験を行った。評価指標には、観光地への全体評価に影響があると考えられる「活動性」、「観光性」、「調和性」、「本物性」を尋ねる13形容詞対に加え、訪問意向、好ましさを尋ねる2形容詞対をもとに5段階SD法尺度を用いた。本調査の全体の分析の結果としては、13形容詞対の評定値で探索的因子分析をした結果、「調和のある本物性」、「非日常的観光性」、「活動性」の3因子が得られた。また、3因子得点を独立変数、訪問意向と好ましさそれぞれの評定値を従属変数とする重回帰分析の結果、3因子全てが訪問意向と好ましさの評価に正の影響を与えることが示され、共分散構造分析でも同様の結果が得られた。次に、写真中の人の特性3条件間の3因子得点の差を一元配置分散分析および多重比較を用いて検証した結果、人、特に観光者の存在はその場所の「非日常的観光性」を上げ「調和のある本物性」を下げる効果があること、地元住民や観光者の存在はともにその場所の「活動性」を上げることが示された。つまり観光者の存在は、「調和のある本物性」の観点からはその場所の全体評価を下げる一方、「非日常的観光性」、「活動性」の観点からはその場所の全体評価を上げることが示唆された。次に、「人排除」の因子得点をもとにしたクラスタ分析を行った結果、「より地元住民向け場面」と「より観光者向け場面」の2クラスタに分かれた。また、全体傾向と同様の重回帰分析の結果、両場面とも「調和のある本物性」、「活動性」の2因子が、「より観光者向けの場面」では加えて「非日常的観光性」が、訪問意向と好ましさそれぞれの評価に正の影響を与えることが分かった。また、一元配置分散分析および多重比較の結果、「より地元住民向け場面」の傾向は全体傾向とほぼ同じであったが、「より観光者向け場面」の傾向は、地元住民の存在より人が存在しない方が「非日常的観光性」を上げ、地元住民の存在より観光者の存在の方が「活動性」をさらに上げる効果があることが示され、場所における人と場所の観光的特性の交互作用がみられた。つまり、「より観光者向け場面」では、観光者の存在が「活動性」の観点から場所の全体評価に好ましい影響を、地元住民の存在が「非日常的観光性」の観点からは好ましくない影響を与えることが分かった。また、共分散構造分析の結果から、「より地元住民向け場面」の方が「非日常的観光性」は「活動性」とは正の、「調和のある本物性」とは負の関係にあり、さらに「非日常的観光性」と「活動性」が全体評価と正の関係にあることが示された。以上より、本研究では、これまで実証的な検証が乏しかった人と場所の観光的特性の交互作用を明らかにし、Pearce(1988)の主張を実証的に補完し、観光地に存在する人に関する研究の知見を進展させたといえる。この結果、観光者誘致においては、人と場所の双方の特性を考慮した上で、地域が、「調和のある本物性」、「非日常的観光性」、「活動性」といった特性のうち何を求めるのかを問い直すという複眼的な熟慮が必要であることが示唆された。
首都大学東京, 2016-03-25, 修士(都市科学)
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