Thesis or Dissertation 重要文化的景観の選定による広域的な観光まちづくりへの波及に関する研究 : 四万十川流域を対象として

山本, 大地

pp.1 - 89 , 2016-03-25
Description
2004年の文化財保護法改正により位置づけられた文化的景観を保全するためには、景観を成立させている生活・生業を維持・継続する動態的な保全・活用が必須である(神吉2010)。しかし、文化財保護法の制度の中では、物理的な景観要素の保全にとどまっており、活用面での支援策が未開発であることが、我が国の文化財行政の課題となっている(井上2013)。一方で近年、観光分野では、地域への滞在日数を増やすことや、地域ブランドの創出などを主たる目的として、行政区域をまたいだ広域での観光推進が着目されており、観光庁などでもこれを推進する施策が進められている(観光圏整備法2008)。また、佐々木(2011)は、このように広域で観光を推進していくためには、地域独自の自然資源(海、山、川、森など)や文化的景観、歴史的町並みなどの広域にひろがる文化資源・環境資源を活用することが観光の持続性につながると述べており、文化的景観の概念は持続的な観光地づくりを進めていく観点からも注目されている。そこで、本研究では、自治体区域をまたいだ広域で重要文化的景観に選定された、日本で初めてかつ現時点で唯一の事例として、高知県西部の四万十川流域を研究事例として取り上げ、選定前後の四万十川流域における広域連携の取組に着目することで、重要文化的景観の選定が地域の文化環境資源を活かした広域的な観光まちづくりに果たす役割や可能性を明らかにする。具体的には、以下の3点を明らかにする。1) 重要文化的景観の選定プロセスや体制にどのような工夫があれば、観光等の文化的景観の利活用を含めた動態的保全の取組につながるか 2) 重要文化的景観の選定が広域的な観光まちづくりの主体形成や価値共有に対して果たす役割 3) 広域自治体にまたがる自然・文化資源を有する地域が広域的な観光まちづくりを進めていくための要件 本論文は、6章で構成される。第1章では、上述のとおり、研究の背景と目的、既往研究の整理と論文の構成、調査方法を記した。第2章では、重要文化的景観の選定以前の四万十川流域の広域連携体制に着目する。四万十川流域が行政区域をまたいだ広域で重要文化的景観に選定された理由として、「都市の文化と景観(文化庁2010)」の中では「選定以前から流域で連携する体制」について言及されている。そこで、選定前の中心的動きであった、流域の環境保全の行政施策や計画書等の文献と、流域連携体制の要の組織である四万十川財団へのヒアリング調査を行った。その結果、選定の下地となっている連携体制が生まれた背景と特徴として2点を整理した。第一に、四万十川流域で行う自然環境保全に関する施策の意思決定を一元的に行える流域市町村の連携体制や財源が整えられたこと、第二に、河川の水質や生態系の保全に加え、農山村景観の保全活用や観光・交流地域づくりを視野に入れて制定された条例の存在である。一方で、当時の連携体制では、流域の環境資源を活用して、実際に事業を行う主体性のある組織がなかったことがわかった。第3章では、四万十川流域の重要文化的景観の選定プロセスに着目し、広域で選定を目指したことによる特徴を把握するため、文化庁の調査官として関わったI氏と、市町村担当者として中心的に関わったK氏、地元住民として関わったH氏に対してヒアリング調査を行った。その結果、四万十川流域で選定の取り組みは、我が国で「広域にわたって」重要文化的景観の制度を運用する「日本初のモデルケース」として、調査方法や体制、価値付けの方法に大きく次の2つの工夫があった。ひとつは、流域5市町村が協力して文化的景観の価値を考えるため、従前の環境保全のための連携体制に教育委員会等が加わる新たな広域連携組織が設立されたこと、二つ目は、選定対象地域が広大なため地元住民団体による保存調査への協力や、各市町村でのシンポジウムが開催されたことである。これにより、行政や文化財調査の専門機関だけでなく、地元住民も流域の「文化的価値」を考えるきっかけが生まれていたことがわかった。この2、3章の状況が、四万十川流域で共通のコンセプトやテーマを持って活動する主体の形成、あるいは、現在の広域での観光まちづくりに何らかの関係があるのではないかという仮説のもと、選定後の行政主体の活動(4章)と、住民主体の活動(5章)をそれぞれ把握した。第4章では、行政主体の活動を把握するため、文化財担当者のK氏に対するヒアリング調査を行った結果、選定活動の際に、設立された広域連携組織は、選定後も市町村同士の互助組織及び、広域の文化的景観の活用を主体的に図る組織として機能していることがわかった。具体的には、文化的景観の保全に関わる基礎情報の整理や、地域に住む人自らが景観について語るしくみとして、来訪者や大学と継続的に交流できる観光プログラムの企画を行っていた。第5章では、住民主体の活動を把握するため、保存調査に参加した3つの住民団体に対してヒアリング調査を行った。その結果、選定活動を通じて知り合った流域市町村の住民によって設立された広域連携組織により、広域にひろがる文化的景観の構成要素を活かした観光イベントが開催されていた。さらに、このイベントを通じて、選定活動に直接関わりのなかった住民、民間鉄道会社、他県の景観保全団体との連携もはじまり、「文化的景観の活用」という共通コンセプトによる、広域的な活動のひろがりの実態が明らかになった。第6章では、重要文化的景観の選定が観光面に対して及ぼす効果を論じた。広域の観光活動が持続しない原因は、地域間で共有する理念や目標がないこと(徳山2013)と言われる。四万十川流域では、専門家や行政、地元住民団体という多主体が関わった重要文化的景観の選定プロセスが、まさに各地域の固有性や地域資源の価値を再認識し、地域間で共有できる理念の構築に至ったと言えよう。さらに、四万十川財団という広域連携組織が、選定前後から今日に至るまで、一貫して関わり、行政の協議会や市民活動における一元化された事務局機能を果たしていることで、広域にひろがる文化資源・環境資源を活かした観光まちづくり活動を支えていることがわかった。最後に、我が国の文化財行政に対して、重要文化的景観の選定プロセスに地域の多主体が関わる機会や、その後の活動の支援制度を整える必要性を提言した。
首都大学東京, 2016-03-25, 修士(都市科学)
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