学位論文 ロンドンにおける都市再生戦略としてのハイストリート2012事業に関する研究

中川, 望

pp.1 - 100 , 2016-03-25
内容記述
近年のオリンピック・パラリンピック競技大会(以下、五輪と呼ぶ)は、開催地の都市問題を解決したり、新しい発展の方向を示したりする契機となってきた。2020年五輪の開催都市に選ばれた東京でも、開催時とその後に向け、東京を支える都市空間の整備が進められている。東京湾臨海部や虎の門地区、新国立競技場地区といった大規模な拠点型の開発が注目されがちであるが、そうした拠点周辺地域における生活拠点としての商店街や目抜き通りといった地区も五輪を契機に再生、再整備していく視点が必要であると考える(日本都市計画家協会、2015年)。また、こうした地区は観光者にとっても、その国の歴史が積み重なり、魅力を伝える空間としても重要である。ところで、2012年ロンドン五輪の開催エリアは、ブラウンフィールドと呼ばれる工業系荒廃地の再生が意図されていたが、その他にも、ロンドン中心部とオリンピックパークを結ぶ衰退傾向にあるホワイトチャペルロードおよびマイルエンドロードと呼ばれるハイストリート(幹線道A11号線)の再生も進められていた。ハイストリートとは、ロンドンにおける沿道商業地区の呼称であり、各住宅地域の生活中心地となってきたといわれる(Carmona,2014)。そこで本研究では、2012年ロンドン五輪を契機にハイストリートA11号線の再生事業として進められた「ハイストリート2012事業(以下HS2012事業と呼ぶ)」を取り上げる。そして本再生事業のロンドンの都市再生戦略における意義やオリンピックとの関連性について、次の3つを明らかにすることを目的とする。(1) ロンドン都市再生戦略において沿道型商業地再生(=ハイストリート再生)が推進された背景と経緯の把握をする。(2) ハイストリート再生の中でも先行的に取り組まれたHS2012事業の特徴を明らかにし、(1)の戦略上の狙いの視点から評価する(3) 以上から、HS2012事業が五輪開催年を目標とする事業の進め方や意義、その後のハイストリート政策に対して果たした役割やモデル性を考察する。本論文は以下6章で構成される。第1章では、研究の背景と目的、既往研究の整理、論文の構成を示した。第2章では、ロンドンにおいてハイストリート再生が推進された経緯と狙いを把握することを目的とし、社会的、学術的、政策的な視点から調査を行った。調査方法としては、ロンドンのGLA(大ロンドン庁)によるハイストリート政策の内容と、その形成の際に大きく参照されたイギリスの都市計画・公共空間研究の第一人者であるマシュー・カルモナの研究内容の把握から、ロンドンにおけるハイストリート再生の意義と学術的提案について整理した。具体的には、①ハイストリートが、あるまとまった住区(Locality)を構成する主要素として地域経済を担い、例えばロンドン市の雇用の1/3を生み出す重要なエリア群であること、②従って、ロンドンにおける従来の拠点型再生からストリート型再生を目指すべきであること、③その方策として、ハード整備における4つの方策(景観向上、交流空間創出、円滑な移動、土地活用・流動化)とこれをマネジメントするソフトの方策(管理・活用する組織形成や戦略的イベント造成等)による、「総合的アプローチ」が重要である、と整理できた。この3点に、本研究で扱うHS2012事業が④五輪を契機とした事業プロセスであること、を加えた4つの論点から、3章以降でHS2012事業の内容を把握し、評価した。第3章では、主に「総合的アプローチ」を評価軸として用いて、ハイストリート2012事業の内容や特徴を把握し、あわせて五輪開催との関連性を分析した。その結果、五輪開催に合わせ、HS2012事業地区の8つの工区ごとに短期集中的に整備を行っていた。その際、地域性を有する街路景観整備といったハード面の整備に重点が置かれた一方で、事業後に、市民による活用を促進するなどの地域を巻き込むための支援及び活動は行われていないということがわかった。第4章では、HS2012事業に対する地域住民や沿道店舗経営者等からの印象評価を、地元コンサルタントがまとめた評価報告書の分析と、筆者による沿道店舗へのアンケート調査によって把握した。その結果、HS2012事業は既往店舗の経営面、地域間の交流やコミュニティ活動の向上は感じられていなかったが、街路景観や環境の向上が新規事業の進出に影響を及ぼしていることが分かった。第5章ではHS2012事業地区における店舗改修の実態を、事業前後における沿道店舗の連続立面写真の比較により分析をした。その結果、HS2012事業で助成を受けた建物だけでなく、助成を受けていない沿道建物においても、ショップフロントの改修や従前と異なる店舗が営業していることがわかり、HS2012事業の波及効果が推察された。実態として、HS2012事業地区は、商業・都市施設等の新陳代謝や、新たな事業活動がうまれている点で、HS2012事業はストリート全体において再生し、対象地区を繋ぐ一定の成果を得ていることがわかった。第6章では、5章までを総括し、都市再生戦略としてのHS2012事業の実態を踏まえ、事業の果たした役割やモデル性を明らかにした。その結果、HS2012事業は学術分野から提言された「ハード面の改善とそれを活用するためのソフト面の取り組みを合わせた総合的アプローチ」によるハイストリート再生の実践モデルを、部分的ではあるが、示すことができ、その後の広域的な政策につながる役割を果たしたと考察できる。また、五輪を契機とした事業や政策の意義として、広域的に点在する都市課題に対し、オリンピック競技場などの開催拠点周辺地域においてパイロット事業化し、五輪開催年に合わせた事業完了年次を設定することで、確実に事業を進め、PRでき、効果的に広域で政策を展開させることができた、ということが挙げられる。
首都大学東京, 2016-03-25, 修士(都市科学)
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