Thesis or Dissertation 駆動電流変調に基づくRamsey-CPT共鳴の励起法に関する研究

井出, 拓美

pp.1 - 67 , 2016-03-25
Description
近年、Coherent Population Trapping (CPT) 共鳴と呼ばれる原子と光の相互作用を利用した超小型原子発振器が注目されている。この発振器は小型かつ低消費電力でありながら、現在普及している水晶発振器よりも高い周波数安定度を有する。しかし、スマートフォンなどの小型情報端末への搭載やトリリオンセンサへの応用を考えた場合、周波数安定度・体積・消費電力ともに更なる改善が要求されている。周波数安定度において原子発振器で重要とされる短期安定度の性能は、共鳴のS/N比とQ値の積に比例する。S/N比は信号対雑音比を表し、光強度を高めることで改善可能である。一方、Q値は共鳴幅の細さを表すが、光強度を高めるとパワーブロードニング効果によって共鳴幅が増加しQ値の低下を引き起こす。したって、S/N比とQ値を同時に改善するのは困難であった。この問題の改善策の1つとしてパルス励起法が報告されている。パルス励起法はレーザをパルス化することでRamsey-CPT共鳴を発生させる方法である。パルスレーザを利用することでパワーブロードニング効果が抑制されるため、高いS/N比を維持したままQ値を向上させることができ、短期安定度の大幅な改善が可能となる。しかし、従来のパルス励起法ではレーザのパルス化に音響光学変調器のような追加装置を必要とするため、それに伴う消費電力・体積の増加から超小型原子発振器への適用は困難であった。そこで本研究では、パルス励起法を超小型原子発振器へ適用することを目指し、レーザの駆動電流変調のみでパルス化を行う方法を提案する。通常、駆動電流変調によりパルスレーザを生成した場合、レーザ出力光のON/OFF切り替えは可能であるが、レーザの内部温度変動に伴い出力波長に変動が生じる。したがって、必要な波長を出力するまでに時間を要するため、パルス励起法に駆動電流変調を適用することは困難であった。これに対し、提案法ではレーザに2段電流パルスを入力することで解決をはかった。電流パルスの1段目によりレーザを急激に加熱することで波長の立ち上がり時間を短縮し、続く2段目の電流は1段目よりも小さい電流を入力することで必要な波長の維持を行った。本論文では、提案手法を実験的アプローチから検証した。光源として垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)を使用し、駆動電流変調により生成したパルスレーザを用いてRamsey-CPT共鳴の観測を行った。実験からS/N比とQ値を算出し、音響光学変調器を用いた観測結果との比較から本提案手法の有効性を評価した。本論文は全5章で構成されている。第1章は序論である。本研究の背景を示し目的を明確にする。第2章はCPT共鳴を利用した原子発振器について述べる。周波数安定度について説明し、原子発振器における周波数安定度の支配要因を示す。さらに本研究の基礎となるCPT共鳴の原理とパルス励起法に関して詳述し、CPT共鳴の励起に必要な2本のレーザを生成するためのRF変調について説明する。第3章は駆動電流変調について述べる。2段電流パルスを用いた出力波長の立ち上がり時間改善の手法や波長変動の推定方法を説明し、本提案手法を実現する装置構成を示す。波長変動の推定には透過光に現れる吸収線を利用した。駆動電流変調はレーザの出力波長が変動するため、RF変調により生じたサイドバンドが影響し、透過光に複数の吸収線が観測される。レーザが照射されてから吸収線が現れるまでの時間を測定することで波長変動の推定を行った。第4章は駆動電流変調を用いたRamsey-CPT共鳴の観測結果である。短期安定度に寄与するS/N比とQ値を、音響光学変調器を用いた結果と比較した。実験結果は通常のCPT共鳴に比べ、音響光学変調器を用いた場合S/N比とQ値の積が7.6倍向上したのに対し、本提案手法を用いた場合7.2倍向上し、ほぼ同等の性能改善が期待できる結果が得られた。第5章は結論である。実験から得られた知見をまとめ、本研究の有効性について述べる。
首都大学東京, 2016-03-25, 修士(工学)
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