学位論文 ASTRO-H搭載軟X線望遠鏡の金L吸収端付近の反射率特性と原子散乱因子の導出

菊地, 直道

pp.1 - 232 , 2016-03-25
内容記述
2016年2月に打ち上げ予定である次期X線天文衛星ASTRO-Hには、4台のX線望遠鏡が搭載され、その内の2台が0.3-10 keV のX線の集光、結像を担う軟X線望遠鏡(SXT:Soft X-ray Telescope) である。X線の波長帯では、物質の屈折率は1よりわずかに小さく、さらに物質との相互作用があるため、可視光などの波長で用いられる光学素子では効率よく集光させることができない。そのため、X線望遠鏡はおよそ1 °以下の極端な斜入射でのX 線の全反射を利用したWolter I型斜入射光学系を採用している。回転放物面と回転双極面の2回反射を利用し、焦点面にX線を結像させることのできる光学系である。またSXTは、薄いAl基板に金を成膜した反射鏡を、同心円状に多重に積層した多重薄板型を採用した望遠鏡でもある。我々は今までこの2台のSXTの集光力、結像性能などの特性を把握するための地上較正試験を行い、現在、応答関数を構築する段階に至っている。応答関数は、望遠鏡などの集光力や結像性能などの特性を記述した関数である。我々の手元に届けられる観測データには、必ず観測機器の応答が畳込まれてしまっており、解析の際にはこの応答関数を仮定しなければ、天体の真の情報を得ることはできない。このため、観測機器の開発では必ず較正試験を行い、その結果を基に応答関数を構築するプロセスを踏む。SXTの場合は、実測を再現できるように調整した望遠鏡を記述するファイルや、望遠鏡の素材の物理パラメータを読み込み、シミュレーションを行うことで応答関数を得る。SXTの内1台は、ΔE < 7 eV という分光能力を誇るX線カロリーメータ(SXS:Soft X-ray Spectrometer) と組み合わされるため、観測データを有効活用するには高精細な応答関数が要求される。このSXSの観測エネルギー帯には、望遠鏡の反射鏡に成膜されている金の吸収端が存在し、観測されたスペクトルには必ずこの複雑な吸収構造が現れる。今まで、応答関数を求める際に用いる吸収端構造の情報を持つ原子散乱因子は、Henke 1993などのデータを参照してきたが、これらの文献のエネルギーピッチではSXSの分光能力に対応できない。また、これらのデータはバルク状態のものであり、反射鏡の薄膜状態の金とは一般に異なる場合がある。そのため、正確な応答関数構築のためには、SXT用の反射鏡の反射率測定を行い、そこで得られた結果を基に、独自に導出した原子散乱因子を用いなければならない。これらの必要性から、本研究では金のL 吸収端付近(11-15 keV) の詳細な原子散乱因子の取得を目的として、SPring-8 BL01B1にSXT用サンプルミラーを持ち込み、詳細な反射率測定を行った。金のL 吸収端の付近は、ASTRO-Hの軟X線検出器と硬X線検出器の検出域がオーバーラップし、軌道上の機器の較正において重要な領域であるため、吸収端の構造を把握することが必須である。このBL01B1では高輝度で、2結晶分光器で単色化(ΔE=E~6×10^<-5>) されたX線を照射することができ、反射率の吸収構造を測定することが可能である。反射率測定では、金のL吸収端付近を0.3-0.7 eV ピッチと細かくX 線エネルギーを変え、入射角も変えることで0.2-0.8 °の反射率データを得た。反射率測定の結果(図1)、今まで参照してきた原子散乱因子のデータにはないXAFS構造が見られ、また吸収端の深さがHenke 1993と比べ~ 60%ほど小さいことが分かった。この反射率測定の結果を基に、原子散乱因子の導出を行った。各エネルギーごとの反射率は複素屈折率から計算できる。この複素屈折率n=1-δ-iβのうち実部の光学定数δがf_1、虚部の光学定数βがf_2 に比例する。そのため、エネルギーごとに反射率データを抽出し、反射率モデルのフィッティングすることによって原子散乱因子を導出した。この結果(図2)、原子散乱因子の連続部分はHenke 1993に近い結果が得られたものの、反射率測定の結果と同様に、f_1、f_2 にもXAFSの波状構造が現れた。f_1を比較すると、吸収端の深さが反射率測定と同様に、Henke 1993と比べて小さいことも確認できた。得られた原子散乱因子から有効面積を計算すると、吸収端でHenke 1993 と比べ最大~1.5 倍大きいことが分かり、本研究で得られた結果は、吸収端付近の構造が参照文献と大きく異っていると言える。今後は本研究で得られた原子散乱因子を採用し、より精度の高い応答関数の構築を目指していく。本論文ではSPring-8 BL01B1で行ったSXT用反射鏡の詳細な反射率測定と、原子散乱因子の導出の結果について述べる。
首都大学東京, 2016-03-25, 修士(理学)
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