学位論文 X線天体観測における輝線・吸収線の統計的評価方法と「すざく」への適用

宮﨑, 直人

pp.1 - 74 , 2016-03-25
内容記述
天体からのX線には温度による放射やコンプトン放射などの連続スペクトルに加えて、量子力学的なエネルギー準位の遷移による光子の放出や吸収が観測されることがあり、その有無を検証することは天体の物理を解明する上で重要である。2016年2月に打ち上げ予定の次期X線天文衛星ASTRO-Hではこれまでの20倍以上の分解能での分光観測が可能になるため、その重要性は高まることが予想される。しかし、スペクトル上の局所成分である輝線や吸収線は連続スペクトルと比較して統計的に不利な状況にあり、X線天文学で通常使われるモデルフィットとF検定でこれらを評価することには原理的な困難がある。私は、過去にガンマ線バーストの残光の微弱なX線信号からの輝線探査に用いられていた手法を「すざく」衛星の観測データに適用し、輝線や吸収線の詳細な探査・評価する手法を開発した。この手法は、パルス信号の信号{ノイズ比を最適化するフィルターをエネルギー軸に応用し、連続スペクトル上の輝線や吸収線を最適化した上でモンテカルロ法により信頼区間を得るというものである。連続成分のベストフィットモデルのみから全エネルギー帯域を同時に探査できるため、特に未知の輝線や吸収線を探す上で、簡単かつ強力な手法である。私はこの手法をマグネターのスペクトルに適用し、理論的に存在が予言されているものの観測例が少ない、サイクロトロン共鳴吸収線(CRSF) の探査を行った。マグネターの評価を行う準備として、過去に報告されている活動銀河核(AGN) のultra fast outflow からの鉄の吸収線の評価を行い、手法の検証とした。その結果、先行研究に矛盾なく検出することに成功し、この手法は「すざく」に対しても有効であることを確認した。マグネターは通常の中性子星の磁場10^<12-13> ガウスよりもさらに2-3桁強い10^<14-15>ガウスもの磁場を持つと考えられている天体である。中性子星周辺のような強磁場下では電子や陽子のエネルギーは磁場の大きさとサイクロトロン周波数に応じて量子化され、エネルギー準位の間隔に応じた光子が入射すると共鳴して吸収されるCRSFが観測される。これまでに、X線パルサーからは電子のCRSFがX線領域で観測されており、X線パルサーの磁場測定に役立っている。マグネターでは電子より約2000倍の質量を持つ陽子のCRSFがX線領域に現れることが予測されている。検出に成功すればマグネターが強磁場を持つことの直接的な証拠となりうるが、現在までに有力な発見例は少ない。本論文で対象としたマグネターは「すざく」で2007年から2年おきに4回観測されている4U 0142+61(計~350ksec) と2009年、2010年の2回観測されている1RXS J1708-4009(計~120ksec) である。どちらも古くから知られる、定常的に明るいX線放射が観測される代表的なマグネターである。私はこれらの天体のすべてのデータに対し、全観測時間のスペクトルを抽出して輝線や吸収線を探査したが、いずれからもCRSFと思われる吸収線は発見されなかった。さらに、マグネターからは星の自転周期に対応すると思われる~10秒のX線パルスが検出されるため、パワースペクトルとピリオドグラムから周期を決定し (4U 0142+61; 8.689 s、1RXS J1708-4009; 11.006 s)、得られた周期で畳み込んで位相分けしたスペクトルを作成して探査を行ったが、やはりいずれからも吸収線は発見されなかった。そこで、モンテカルロ法で得られた分布から「すざく」の観測における輝線と吸収線の上限値を求めたところ、4σの有意度の上限値は等価幅にして~1 keV で~eV、~10keV で~100eV と厳しい制限となった。「すざく」で一定間隔で複数回、長時間観測したにもかかわらずCRSFによる吸収線が発見できなかったことは、マグネターの陽子CRSFがさらに弱い信号であるか、あるいは何らかの理由で遮蔽されている可能性を示唆している。本論文ではこれらの解析結果とその妥当性の検証ならびに結果に対する考察を行う。
首都大学東京, 2016-03-25, 修士(理学)
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