Thesis or Dissertation 住宅リノベーションにおける広がり感の創出手法に関する分析

長橋, 祐太

pp.1 - 61 , 2016-03-25
Description
戦後、日本では戦災による住宅消失などに加え、高度経済成長に伴う労働者の大量流入、核家族化の進行による住宅不足のため国、地方、民間企業による住宅の大量生産、大量供給がなされた。そして現在、日本は大量の持ち家と公共/ 社会住宅の2大ストックを抱える国となった。2013年における空き家の割合は13.5% と7 戸に1 戸が空き家となっているにもかかわらず、日本の住宅市場における既存住宅の流通シェアは欧米諸国に比べて極めて低く、新築フローに偏っている。2012年にはストック型の住宅市場に転換することを目指した「中古住宅・リフォームトータルプラン」が策定されたが、東京をはじめとする大都市では大量の空き家があるにもかかわらず新築行為が盛んに行われ、新築フローから抜け出せずにいる。リクルート住総研による調査では、既存住宅の忌避理由として品質不安、設備や内外装の美観の悪さに加え、狭さなどが大きいことが明らかとなっている。そこで本研究では部屋を広くすること、広く感じさせることを合わせて広がり感とし、建築家による住宅リノベーションの設計手法を分析することで、面積、構造など様々な制約がある既存建築の中に如何にして広がり感を生み出しているかを明らかにすることを目的とする。本論文は、6章から構成される。序章では、研究の背景と目的を整理して述べた。第二章では「空間」についての概念とその展開の整理を行った。十九世紀以前、建築上の語彙として存在しなかった「空間」の概念は、二十世紀のドイツを中心に多くの建築家、哲学者によって様々な意味として展開した。そして近代以降の「空間」の解釈を、壁、床、天井に囲まれたものであるというゴットフリート・ゼンパーによる「囲うこととしての空間」、室内と戸外の空間は連続しており無限であるというモホリ・ナギによる「連続体としての空間」、ヴォリュームの中で全身が目になることで知覚されるものであるというアウグスト・シュマルゾウによる「身体の拡張としての空間」の3つに大別し、その意味を示した。第三章では、第二章で得られた3つの空間の解釈を参照することで、狭小建築における広がり感の分析を行った。第二回CIAM会議で議論がなされ、世界各地で展開された最小限住宅と日本の茶室における分析から、囲まれた空間内において家具や空間に様々な機能を複合させる、または主室以外の機能や空間を小さくすることで省スペース化を図る「まとめる」、囲まれた空間とその周囲に広がる別の空間を取り込み一体的な空間にしようとする「つなぐ」、囲まれた空間内に実体的、仮想的なしきりを設けることにより無限の空間を暗示する物陰や狭小の空間を深化させる奥性を生む「しきる」、壁を斜行させることによって生まれる逆遠近などの視覚的効果により空間の領域を錯誤させる「奥行き」という空間に広がり感をもたらすと考えられる4つの手法を抽出した。第四章では、リノベーション住宅の主室空間における空間構成の分析を行った。建築雑誌『新建築』、『新建築住宅特集』の1995年1月号-2015年8月号に掲載された建築作品の中から、232件のリノベーション事例を抽出した。この中から選定条件を設けることで戸建て住宅40事例、集合住宅28事例、合わせて68事例を分析対象とし既存建築の特徴から小住宅、商品化住宅、長屋、町屋、集合住宅の5種類に分類した。さらに対象事例の改修前、改修後の図面の比較と内観写真から既存建築の室を構成する壁、床、天井に対する建築操作9件と内部空間に新たに挿入される要素7件を抽出し、これらの組み合わせから成立する内部空間の特徴から7種類の類型を得た。第五章では、広がり感を創出する具体的な手法の抽出と分析を行った。上記建築雑誌の建築家による解説文より、第二章で得られた「まとめる」「つなぐ」「しきる」「奥行き」に起因する具体的な手法の抽出を行い、全45件の手法を抽出した。この中でも「つなぐ」手法が一番多く、建築の内部空間だけでなく外部空間も取り込もうとすることで広がり感を生み出そうとしていることが明らかとなった。またこれらの手法が用いられる部位や既存建築の種類、第四章で得られた7種類の類型との関係性など、様々な観点からの分析を行いその傾向を示した。結章では、第四章・第五章の分析及び考察を踏まえ、広がり感の創出手法についての考察を行った。住宅リノベーションにおける広がり感の創出には「まとめる」「つなぐ」「しきる」「奥行き」に起因する様々な手法が複合的に用いられている事がわかった。そして、これらによって一室空間として最大限の広さを確保しながらも、間仕切りなどの実体の仕切りに加えて、行為、色、天井高などによって生まれる仮想の仕切りを設けることで様々な場所を生み出し、一室空間の認識が伸び縮みするような広がり感をもった内部空間が創出されていると考える。
首都大学東京, 2016-03-25, 修士(建築学)
Full-Text

https://tokyo-metro-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=4645&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1

Number of accesses :  

Other information