学位論文 テニスストローク動作の低速再生呈示が動作認識および予測判断に及ぼす影響

丸山, 智子

pp.1 - 64 , 2016-03-25
内容記述
テニス競技の対峙場面において,相手選手の動作を認識して予測手がかりを抽出し(動作認識),打球コースを素早く正確に予測することは(予測判断),パフォーマンスを成功に導くひとつの手段となる(Williams et al.,2009).しかし競技未経験の初心者は,どのような動作が予測手がかりとして有益になるのかを把握できないため,素早く正確に予測判断をすることは困難である.この問題に対して,相手選手の動作をスローで呈示し,予測手掛かりを抽出しやすい環境を作ることが,初心者の予測判断技能の向上に繋がる可能性があると考えた.低速再生呈示に伴う観察時間の延長は,予測手掛かりの情報抽出に必要な時間を多く確保できることや(Williams et al.,2002),動作のキネマティクス情報に基づいてその行為目的の理解に繋がる(Moriuchi et al.,2014)など,初心者にとってのメリットが挙げられる.本研究で初心者を対象として低速再生呈示の効果を検討する理由はここにある.しかしながら,フィードバック情報を呈示しない状況で,低速再生呈示が予測判断,またはそれを支える動作認識にどのような効果をもたらすかいった議論はほとんどなされていない.また研究によっては,熟練者の予測判断を低下させるという報告もある(Uchida et al.,2014).こうした状況を考えると,初心者の予測判断技能を改善させるためには,低速再生呈示の効果について検討すべき点が残されているといえる.そこで本研究では,初心者の知覚認知活動に着目して,テニスストローク動作の低速再生呈示が,打球コースの予測判断やそれを支える動作認識を改善させる効果的な情報呈示の方法となるのかについて,2つの実験により明らかにすることを目的とした.2つの実験では,ストローク動作のCG映像を呈示映像として,初心者ならびに熟練者の観察時における打球コースの予測正答率,およびストローク動作の認識誤差(主観評価と実測値との誤差)について比較検討した.予想される結果としては,初心者の予測正答率および認識誤差は特定の低速再生条件で等速再生条件と比べて向上するとした.実験1では,呈示映像をボールインパクトの瞬間で遮蔽し,再生速度を4つの条件(1.0倍速,0.75倍速,0.5倍速,0.25倍速)で段階的に操作することで,低速再生呈示が初心者および熟練者の予測判断・動作認識にもたらす効果を検証した.その結果,初心者の予測正答率は熟練者に比べて有意に低く,また低速再生呈示は初心者の予測正答率や認識誤差を改善させる影響を与えなかった.しかし,低速再生0.25倍速が他の3条件と比較して,熟練者の認識誤差を改善させることが確認された.なお,予測正答率と体幹中心の認識誤差および予測正答率とボールの認識誤差には,顕著な関係性がみられなかった.低速再生呈示によって初心者の予測判断技能が向上しなかった理由には,等速再生(1.0倍速)における初心者の予測正答率が先行研究の結果(Williams et al.,2009)と比べて高値であったことが挙げられる.このことは,映像の遮蔽ポイントとして,インパクトの瞬間を選択したことが,初心者の予測正答率の値を操作した可能性が示唆された.実験2では,実験1の結果を踏まえて,呈示映像をボールインパクトの1フレーム前(-30ms)で遮蔽し,より時間的制約を高めた条件で低速再生呈示の効果を再検証することとした.その結果,実験1と同様に,初心者の予測正答率は熟練者に比べて有意に低く,低速再生呈示は初心者または熟練者の予測正答率を向上させる効果は認められなかった.しかし初心者または熟練者に関わらず,体幹中心の認識誤差が低速再生呈示で改善されることが認められた.特に低速再生0.25倍速が熟練者の認識誤差を改善させる傾向があることを確認した.また,実験1と同様に,予測正答率と体幹中心の認識誤差および予測正答率とボールの認識誤差には,顕著な関係性がみられなかった.実験1での低速再生呈示の効果が認められなかった理由は,呈示映像の遮蔽段階の違いによる問題ではないことが確認された.むしろ,低速再生呈示は,熟練者の体幹中心に対する動作認識を改善させる効果がある可能性が示唆される.また,予測判断と動作認識はその情報処理プロセスが異なる次元にあるのではないかと推察される.2つの実験で得られた知見から,ストローク動作の低速再生呈示は,初心者の動作認識および予測判断を向上させる効果はみられないことが明らかになった.一方で,こうした低速再生呈示の効果は,熟練者の動作認識を改善させる影響があることがわかった.すなわち,低速再生呈示によって動作認識が改善する要件は,スローで呈示する動作が観察者にとって親和性の高い動作であることが考えられる.以上から,低速再生呈示は,「見ている動作を的確に理解する」動作認識を改善させる効果はあるものの,「見えない先のことを判断する」予測判断を改善させるほど強い効果をもたらすものではないと結論づけられる.
首都大学東京, 2016-03-25, 修士(健康科学)
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