学位論文 MRIにおけるCEST Imaging の撮像条件および臨床症例の検討

若山, 季樹

pp.1 - 46 , 2016-03-25
内容記述
Magnetic Resonance Imaging (MRI) 撮像の際に,特定の物質のプロトンが固有のプリサチュレーションパルス周波数で飽和され,そのプロトンが自由水のプロトンと交換することでMRI 撮像の対象である水の信号強度が間接的に低下する現象をChemical Exchange Saturation Transfer (CEST)現象という.CEST 現象を利用した画像法はCEST imagingと呼ばれ,対象とする物質の濃度・pH および温度変化を反映すると考えられている.生体内のアミドを対象としたCEST imaging はAmide Proton Transfer (APT) imaging と言われ,脳腫瘍の悪性度の鑑別,超急性期脳梗塞の検出においてその有用性が期待され研究されている.脳腫瘍におけるAmide 濃度の増加は腫瘍内の豊富な細胞質によると考えられている.脳虚血においてpH は嫌気性代謝によるアシドーシスで低下し,温度は代謝の変化,血流低下による熱交換の障害,早期の炎症反応のいずれか,あるいは組み合わせによって上昇すると考えられている.CEST image の作成には信号値の変化をプロットしたz-spectrum とよばれるグラフを作成し,それを元にCEST 現象の強さの指標であるMTRasym を算出してマッピングしたものがCEST image である.CEST imaging は使用する装置,撮像シーケンス,解析環境によって,最適な撮像条件,解析条件が異なる.本研究で用いた環境では十分にその検討がされておらず,至適条件を検討する必要がある.そしてその結果を元に臨床例を撮像し,臨床的有用性について検討する必要がある.本研究の目的はAPT image の撮像においてAmide 濃度を反映させる最適な撮像条件を検討するとともに,脳腫瘍症例におけるAPT image の有用性を明らかにすることである.本研究の意義は,適切な条件および解析によるAPT image を得ることで,従来のMRI 撮像法では鑑別困難であった脳腫瘍・超急性期脳虚血等の病態解析に貢献できることである.使用撮像機器はMAGNETOM Trio A Tim system(3T, シーメンス社),Head matrix coil(32ch).撮像条件は CEST 用マルチエコー2D GRE 系シーケンス(work in progress) (TR/TE=316/2.46,FA=10,matrix=128,slice thickness=5 mm),測定範囲:±4.5 ppm の範囲,周波数オフセット:1.9 ppm(ファントム撮像)/3.5 ppm(臨床例撮像)とした.至適条件を検討するために,プリサチュレーションパルス印加条件(印加時間,間隔(interpulse delay),強度),撮像回数および測定点数を変化させて,クレアチン溶液を10,30,50,70,100 mM に調製したファントムを撮像して,MTR_<asym> の変化を観察した.脳腫瘍症例におけるAPT image の検証は,共同研究者である放射線科専門医の協力を得て,APT image とMRI の他撮像法,CT,血液検査,生理検査,病理検査等の他検査およびカルテに記載された臨床経過などの臨床情報を比較して臨床的有用性を検討した.撮像条件はファントムスタディの結果を用いた.本研究の遂行にあたっては首都大学東京大学院人間健康科学研究科 研究安全倫理審査によって承認を受けている(承認番号15060).データ取得にあたった公益財団法人東京都保健医療公社荏原病院の倫理委員会においても承認を受けている(承認番号2717).検討の結果,プリサチュレーションパルス印加時間およびinterpulse delay は極力長い方が望ましかったため,設定可能な最長時間である99 ms,100 ms とした.撮像回数(測定点数)はデータの信頼性を担保できる最少の点数である14 回(13 点)(撮像時間0 分34 秒)とした.プリサチュレーションパルス強度は強くするとMTR_<asym> は増強するが,1.6 μT 前後で飽和しそれ以後は低下する傾向が見られたため,1.6 μT を至適強度とした.このときのクレアチン濃度とMTR_<asym> の間には正の相関が見られた(r=0.96,p<0.01).臨床例についての検討では,脳腫瘍症例について,他の画像法(MRI,CT,RI 等)および臨床情報(臨床経過の記録,血液検査,生理検査および病理検査等)により脳腫瘍があると確認されている部位のAPT image の変化を観察した.その結果,悪性度の高い脳腫瘍症例では15例全例でMTRasym は上昇し,低悪性度症例では8 例中5 例で上昇は見られず,3例では上昇が見られた.適切なMTR_<asym> を取得するためには,適切なプリサチュレーションパルス印加時間,interpulse delay,撮像回数(測定点数),印加強度を選択する必要があり,本検討により得られた撮像条件(プリサチュレーションパルス印加時間:99 ms,interpulse delay:100 ms,撮像回数(測定点数):14 回(13 点),印加強度;1.6 μT)を用いることで,撮像したファントムのクレアチン濃度を反映したCEST image を得られることを明らかにした.脳腫瘍症例のAPT image では,悪性度の高い症例においてMTR_<asym> が上昇していたことから,脳腫瘍の悪性度を反映しており,特に高悪性度脳腫瘍の鑑別において一定の有用性があるものと考えられた.また,低悪性度脳腫瘍症例においてMTR_<asym> が上昇しているものが8 例中3 例あった.このうち,びまん性星細胞腫の1 例は,1 年後の撮像において悪性転化の所見が認められたことから,APT image が後の悪性転化を示唆していた可能性がある.今後更に症例数を重ねて検証することが必要である.本研究の問題点は次に上げることが考えられる.第一に現在得られるAPT image には局所磁場不均一やCSF flow によるartifact が存在し,artifact と病理学的な変化を判別困難な例が存在することである.これらは局所磁場の均一性を上げるmulti transmit 技術を用いる,撮像スライス上下にflow の影響を取り除くためのsaturation pulse を用いる等の対策が有用であると考えられる.現在は使用装置の技術的制約によってこれらの対策は困難であるが,今後のバージョンアップの際には改めて検討したい.第二に本研究の臨床症例数は少ないため,得られた知見の信頼性は限られたものであるということである.今後更に症例数を増やして検討していきたい.今後の展望として,amine(周波数シフト+2.0),aliphatic(周波数シフト-3.0)などAmide以外を対象としたCEST image の研究が他の研究者により始められており,腫瘍の悪性度,壊死組織の鑑別において有用性が期待されている.現在筆者が解析に用いている環境では,撮像後に周波数シフトを変更することができない.今後Amide 以外の物質を対象としたCEST image を解析するために,筆者は解析用ソフトウェアを開発する予定である.
首都大学東京, 2016-03-25, 修士(放射線学)
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