Thesis or Dissertation 多素子化に向けた傾斜付き積層配線を用いたTES型X線マイクロカロリメータの開発

山口, 静哉

pp.1 - 116 , 2015-03-25
Description
宇宙の大部分はダークエネルギー、物質で構成されており、通常物質(バリオン)は宇宙のエネルギー密度の4%にすぎない。その多くは観測的に未検出であり、ダークバリオンと呼ばれる。ダークバリオンは宇宙流体シミュレーションによって中高温銀河間物質(WHIM: Warm-Hot Intergalactic Medium)として分布していることが示唆されている。これを広視野で観測することでダークマターの構造を解明することにつながる。WHIMはOVII、OVIIIの輝線吸収線を精密X線分光することで検出できる。しかし、現在のX線検出器ではWHIMを観測するのに十分なエネルギー分解能と視野を備えておらず、次世代のよりよい検出器が求められている。我々のグループでは、WHIMを含む未検出のバリオン探査衛星DIOS(Diffuse Intergalactic Oxygen Surveyor)への搭載を目指した、X線検出器TES型マイクロカロリメータの開発を進めている。マイクロカロリメータはX線が入射した際の素子の温度上昇による電気抵抗値の変化からX線のエネルギーを求めるという検出器である。超伝導遷移端温度計(TES: Transition Edge Sensor)型マイクロカロリメータは超伝導状態と常伝導状態間の急峻な電気抵抗の変化から、数eVという優れたエネルギー分解能を実現することができる。これまでに16ピクセルアレイで、5.9keVの入射X線に対して2.8eV(FWHM)、256ピクセルアレイで4.4eVのエネルギー分解能を達成している。DIOS計画では、アレイ全体で1cm²の有効面積、500μm角のピクセルによる20×20アレイが必要である。しかしこのような大規模ピクセルの実現には、基板上の配線スペースや、ピクセル間のクロストークが問題となってくる。この問題を解決するため、積層配線と呼ばれる、ピクセルまでのホットとリターン配線を絶縁膜SiO₂を挟んで上下に重ねる構造を採用した。従来の構造に比べて配線スペースが削減され、配線自身で磁場がキャンセルすることでクロストークを十分小さく抑えることができる。しかし、積層配線デザインは上部配線の上にTESを形成する必要があり、TESが配線よりも厚くなくては段切れを起こしてしまう。TES下層のチタンを厚くすると近接効果が効きにくくなり、転移温度が200mK程度と高くなってしまう。さらに、配線とTESのコンタクトが悪いため、常伝導抵抗と残留抵抗が高いといった新たな問題が発生してしまった。これらの問題を解決するため、産総研の協力によるイオンミリング法によって配線側面に傾斜を付けた、積層配線TES型マイクロカロリメータの製作を行った。配線側面に傾斜を付けることにより、配線上にTESを成膜しても段切れを起こさず、TESはより薄く配線はより厚くすることが可能なデザインとなっている。先行研究では、傾斜付き上部配線素子で製作及び評価を行い、転移温度が約160mK、常伝導抵抗が500~800mΩ、残留抵抗が1~2mΩと、問題であった転移温度・常伝導抵抗・残留抵抗を改善することができた。本研究では上記の傾斜付き上部配線素子の断面をFIB(Focused Ion Beam)-SEM(Scanning Electron Microscope)で観察し段切れがないことを確認した後、初めて傾斜付きを用いた、積層配線(上部配線+下部配線)素子の試作を行った。cycle1では、過去の条件だしから上部配線の厚みを200nm、下部配線を100nm、チタンを40nm、金を110nmで素子を製作し、評価を行った。その結果、超伝導転移せず、常伝導抵抗が~1-2Ωと要求値を満たさなかった。そこで、試作した素子の断面観察を行ったところ、テーパー角が急でTESが薄くなっていることを確認できた。cycle1の結果からレジストリフローの条件を変えてcycle2を行った。cycle1から金の膜厚を90nmに変えて製作し、評価を行った。その結果、常伝導抵抗が~300mΩと要求値を満たしたが、転移しなかった。そこで、再度転移温度の条件だしを行ったが、配線なしの基板との相関は見られなかった。その後、超伝導転移することを目的としてTi/Au=40/70nmの膜厚で製作し、評価を継続する。また、これらの評価のためには、~100mKという極低温で動作する冷凍機が必要であり、従来のヘリウム希釈冷凍機では冷却に1週間程かかり、1度の実験に寒剤として高価な液体ヘリウムを100L程度必要とする。そこで私は冷却試験を効率化するために無冷媒希釈冷凍機の立ち上げ及び性能評価を行った。これによって、1度の冷却にかかる時間を自動運転により3~4日に短縮し、液体ヘリウムを消費せず実験を行うことが可能になった。今後は傾斜付き積層配線TES型マイクロカロリメータで、優れたエネルギー分解能を達成することが課題である。
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