学位論文 国内地域間輸送と港湾・空関連産業を明示した開放経済多地域応用一般均衡モデル

木村, 祐太

pp.1 - 103 , 2015-03-25
内容記述
近年の経済のグローバル化に伴い世界的な貨物輸送量が増加する一方,わが国の主要港湾への寄港は減少しており,国内産業の国際競争力低下が懸念されている.こうした現状からわが国では,港湾アクセス道路の整備や国際港湾の重点的整備など効率的な国際物流ネットワークの整備が推進されており,物流の効率化がもたらす経済的波及効果の観測を行う重要性が高まっている.このように経済効果が広範囲かつ長期間にわたる社会基盤整備政策評価を行うツールとして,多地域応用一般均衡(SCGE:Spatial Computable General Equilibrium)モデルが存在する.SCGEモデルは経済の均衡状態をモデル上で再現するもので,政策前後の均衡状態を比較することで定量的な政策評価が可能となる.SCGEモデルで社会基盤整備政策を扱うためには,各政策を経済的インパクトとしてモデル内に与える必要があり,様々な研究がなされている.上記したような物流の効率化のうち,交通整備政策に関しては,地域間の交易に関する中間マージンを明示的に扱ったモデル(宮城・本部, 1996)などが挙げられ,実際の事業評価への実用例も多く見られる.一方,港湾整備政策に関しては,国際物流に関連する産業が多く立地する港湾・空港都市の産業特性を明示的に扱ったモデル(石倉・坂井, 2012)が存在するが,分析は仮想都市データを用いた実験にとどまり,実都市データの適用可能性については示されていない.また,国内地域間輸送と港湾都市の産業構造の両方を考慮したモデルの構築はなされていない.本研究では国内地域間輸送と港湾・空港都市の産業構造の両方を明示的に扱うことで,国内における国際物流の効率化について総合的な評価が可能な新たなモデルを構築した.本モデルでは一箇所の港湾・空港都市と複数の後背地都市の計n都市からなる開放経済を想定する.財の種類は輸入財,輸出財のみを考え,その他の財は全て合成財として扱う.生産要素として労働と資本を考え,これらは各都市の家計によって保有されており要素市場は各都市内で閉じている.各都市には合成財企業と家計が存在し,港湾・空港都市にはそれらに加えて海外との貿易を行う港湾関連企業が存在する.後背地都市は直接的に海外との貿易を行わず,貿易は全て港湾・空港都市の港湾関連企業を通して行うものとする.また,国内各都市間の財の取引には輸送費を考慮する.また,本モデルで仮定している産業構造に対する実都市産業連関表のデータは存在しないため,本研究では,本モデルに適用可能な実都市データの作成について2005年東京都産業連関表を実例として作成手法を示した.東京都産業連関表は2地域表(東京都/国内その他地域)となっており,本研究では東京都を港湾・空港都市,その他地域を後背地都市と仮定し,データの作成を行った.整備されている産業連関表データを本モデルに適用するためには港湾・空港関連産業の抽出が不可欠であるが,本研究では既往研究における港湾関連産業の定義(中野・稲村, 1982)に着目し,東京都産業連関表との対応表を作成することにより抽出を行った.また,ここで定義される全ての産業を港湾・空港関連産業として抽出した場合と,より狭義の港湾・空港関連産業として運輸に関する産業のみを抽出した場合で,港湾・空港都市の産業規模が大きく変化し経済的波及効果に大きく影響すると考えたため,2通りの産業連関表を作成し分析結果の比較をすることとした.以上に示したモデルとデータを用いて仮想シナリオ分析を行い,モデル出力について考察を行った.本研究では交通整備シナリオ(Scenario 1),港湾・空港整備シナリオ(Scenario 2),双方を同時に実施した場合(Scenario 3)の計3通りに対して,上記したような産業規模による場合分け(大規模:Case 1・小規模:Case 2)の計6パターンで分析を行い,得られた内生変数(価格変化率,生産・消費変化率,便益)について比較を行った.Scenario 1 では,交通整備による生産の効率化に起因した要素価格の上昇,財価格の下落,および生産や消費の増加が生じ,この結果,各都市において正の便益を観測した.一方Scenario 2では,両Caseともに財価格が下落したものの要素価格も下落し,Case B では東京地域(港湾)で消費が減少し,負の便益が生じた.これは大規模な後背地都市を持つ港湾都市における経済衰退現象を表していると考えられ,Scenario 1,2 ともに物流効率化政策による経済的波及効果を定量的に観測することができた.また同時実施シナリオであるScenario 3 では,両Scenarioで正の便益を生じたCase 1のみならずScenario 2単体では負の便益を生じたCase 2においても総便益が正の値となり,事業の総合的な評価分析の必要性について定量的に確認することができた.以上本研究では,国内地域間輸送と港湾都市の産業構造の両方を明示的に取り扱ったモデルを新たに構築し,実都市産業連関データの作成手法を示した上で東京都産業連関表を用いたシミュレーション実験を行うことにより,SCGEモデルによる国内物流ネットワーク整備施策に関する空間経済分析の実用可能性について示した.
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