Thesis or Dissertation ミクログリアの MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞への分化転換機構に関する研究

野中, 秀樹

2016-03-25
Description
ミクログリアは遊走能・貪食能および炎症性サイトカインの放出などにより脳内の免疫反応を担っているとともに神経栄養因子を分泌して神経系の維持および修復にも関与している中枢神経系のグリア細胞である.近年,ミクログリアが高濃度血清中でニューロンやアストロサイトへと分化転換する可能性を示唆する報告が出された.しかしながら,ミクログリアの神経系細胞への分化転換を支持する報告は依然として少なく,その分子メカニズムに関してはほとんどわかっていない.そこで本研究は,単離・精製したミクログリアがニューロンやアストロサイトへと分化転換することを確認し,その分子メカニズムおよび分化転換の促進方法についての検討を行い,以下の知見を得た. 第一章 ミクログリアの microtubule-associated protein 2 (MAP2) 陽性および glial fibrillary acidic protein (GFAP) 陽性細胞への分化転換に関する研究 単離・精製したミクログリアは,ミクログリアのマーカーである CD11b および ionized calcium binding adaptor molecule 1 (IBA-1) で染色したところ約 99% と高純度であった.既報に従い高濃度血清中で 2 日間培養することで,精製したミクログリアがニューロンのマーカーである MAP2 やアストロサイトのマーカーである GFAP 陽性の細胞に分化転換すること,さらに,insulin-like growth factor-1 (IGF-1) 添加 E2 medium 中で培養することにより分化転換がさらに誘導されることを確認した. 第二章 ミクログリアの MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞への分化転換における SOX2 の役割に関する研究 ミクログリアの MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞への分化転換を制御する因子として,神経幹細胞の性質を特徴付ける重要な因子であるとともに神経系の成熟にも寄与する転写因子である SOX2 に着目した.ウェスタンブロッティングにより,単離・精製したミクログリアを高濃度血清中で培養すると SOX2 タンパク質の発現量が増加すること,また,免疫細胞染色により SOX2 タンパク質は分化転換後の MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞の核内に発現していることを明らかとした.さらに,siRNA を用いた検討により,SOX2 をノックダウンすることでミクログリアの MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞への分化転換が抑制された.続いて,過去の研究により高濃度血清中の BMP がミクログリアの分化転換に寄与していることが知られているため,その下流にある Smad シグナル伝達経路が作動しているかどうかを確認した.高濃度血清処置により,Smad1/5/8 のリン酸化および Smad4 タンパク質が一過性に上昇することがウェスタンブロッティングにより確認された.さらに, Smad4 の siRNA を処置することにより SOX2 タンパク質の発現上昇が抑制され,ミクログリアの MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞への分化転換も抑制された.以上より,高濃度血清処置による Smad シグナル伝達経路を介した SOX2 タンパク質の発現上昇が,ミクログリアの MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞への分化転換において重要な役割を担っていることが明らかとなった. 第三章 ミクログリアの MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞への分化転換における basic FGF (bFGF) の作用に関する研究 単離・精製したミクログリアを高濃度血清中で培養すると,神経幹細胞の主要な転写因子である SOX2 タンパク質の発現上昇が認められたことから,高濃度血清中の細胞は一部神経幹細胞様の性質を有していると推測された.そこで,ミクログリアの MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞への分化転換を促進する手段として,神経幹細胞の分化および増殖を制御する成長因子である bFGF に着目した.ミクログリアを高濃度血清中で培養すると bFGF の受容体である Fgfr1, Fgfr2 および Fgfr3 のmRNAが上昇することが定量 PCR で確認され,続く bFGF の処置はミクログリアの MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞への分化転換を促進させた.また,当作用が FGFR tyrosine kinase inhibitor である SU5402 でブロックされることや,高濃度血清処理をする前の細胞に bFGF を処置しても分化転換が起こらないことから,当作用は FGFR を介した作用であることが確認された.また,この bFGF の作用は MEK inhibitor である PD98059 により部分的に抑制されたことから,一部 ERK-mitogen activated protein (MAP) kinase の経路を介していることがわかった.以上より,ミクログリアは高濃度血清中で FGFR1-3 の発現を上昇し,続く bFGF による FGFR の刺激が一部 ERK-MAP kinase 経路を介して,ミクログリアの MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞への分化転換を促進することが明らかとなった. 本研究により,ミクログリアが高濃度血清中で MAP2 陽性および GFAP 陽性細胞へと分化転換する分子メカニズムとして Smad シグナル伝達経路を介した SOX2 タンパク質の発現上昇が重要であること,さらに,続く bFGF の処置が分化転換を促進することが明らかとなった.本研究の成果は,脱落したニューロンを補充する手段として,ミクログリアが標的となり得ることを示すものであり,新たな再生医療のコンセプトの基礎的知見を提供するものである.
Full-Text

http://repository.lib.kit.ac.jp/opac/repository/10212/2333/D2-0200_h1.pdf

http://repository.lib.kit.ac.jp/opac/repository/10212/2333/D2-0200.pdf

Number of accesses :  

Other information