学位論文 定性的・定量的手法を用いた伝統工芸における社会・産業的実態の解明- 京蒔絵を対象として -

成田, 智恵子

2016-03-25
内容記述
近年、伝統的工芸品産業は生活様式の変化による需要の低迷、原材料や生産用具などの生産基盤の減衰、人材不足など様々な課題を抱えている。これらの課題を解決するために、経済産業省をはじめとして官民問わず種々の支援策が考案・実施されている。しかし、伝統的工芸品産業は減衰の一途を辿っており、依然として改善の兆しは見られていない。そのため、現状の課題として考えられているものの「問題の所在」とは何であるのかということを学術的に検証する必要がある。前提として、伝統的工芸品産業は伝統的工芸品産業の振興に関する法律に規定された特殊性を持つものづくり産業である。そのため、継承問題について論じるためには、継承の基盤となる伝統的工芸品産業についての検討を行なう必要がある。また、産業を支えるヒトとモノの両側面に着眼し、技能者の考えや伝統的工芸品の制作に不可欠な材料の現状を明らかにすることは、伝統工芸のみならず他のものづくり産業や学術的にも意義がある。本論文では伝統的工芸品産業の社会・産業的実態を解明するために、継承問題における問題の所在に関する検討、後継者候補と現役の産業従事者の職業に対する意識調査、材料の現状調査の3つの観点から総合的に研究を行なった。本論文は第1章の緒論から第7章の結論までの全7章で構成される。以下に各章の内容を記す。 第1章では緒論として、本研究の背景と研究対象の概要、目的と意義、そして本論文の構成を述べた。 第2章では、職人の技能の定義付けを行ない、近年のものづくりの技能継承の在り方とその問題点をもとに技能継承における問題の所在について論じた。また、伝統的工芸品産業の継承問題における問題の所在について明らかにした。その結果、職人の技能とは暗黙的領域を持ちながらも、客観的記録や刺激に対して技能者が主体的な意味づけを行なうことによって表出伝達ができる可能性を持つ身体的な知識であるということを示した。また、技能継承における問題の所在として、定量的手法と定性的手法の両手法を包括した実践がなされていないことが分かった。さらに、伝統的工芸品産業の継承問題における問題の所在には、産地・業種・職種の差異、伝統的工芸品産業が持つ産業的側面と文化的側面の差異、職人の技能に対する捉え方の不明瞭さがあるということを示した。 第3章では、伝統的工芸品産業を取り巻く人材の意識に着眼し、産業の従事者候補である工芸の実技を学ぶ学生および現状の産業従事者の職業や工芸に対する意識について検討を行なった。その結果、伝統工芸を志向する学生は≪専門性志向型≫、≪受け身型≫、≪伝統工芸志向型≫の3つの類型に分類されることを明らかにした。また、伝統工芸士は自己の資質・能力、伝統工芸への対応力、継承環境、熱意を職業継続成功要因として考えていることを明らかにした。さらに、伝統工芸士は経営的職務の有無と仕事内容の違いによりスキル習得方法に対する考えが異なるということを明らかにした。 第4章では、現状の産業従事者である師匠・弟子の意識の比較から、蒔絵職人の専門家アイデンティティについて検討を行なった。その結果、蒔絵職人の専門家アイデンティティには、“反復作業の重要性”などの時代の変化に伴わない4つの専門家アイデンティティと“社会的要求に対応可能な技能の習得”などの時代の変化に伴う4つの専門家アイデンティティがあるということを明らかにした。 第5章では、100年以上に渡り持続的に仕事を続けている蒔絵の工房に着眼し、経営学的観点からその成功要因について検討を行なった。その結果、伝統的工芸品産業において持続的に経営を行なっている蒔絵の工房は、作家経験による創作性と発信力を持つ職人である経営者と、経営者の構想に応える技能を持つ職人との体制を保持しているということを明らかにした。また、“熟練技能を活かした現代の需要に応じた価値づくり・人づくり”などの4つの方法によって産業の変化を乗り越えてきたことを示した。 第6章では、蒔絵材料の現状を明らかにするために、漆の表面仕上げ材料に着眼し、材料と劣化の関係について検討した。また、蒔絵に用いられる金銀粉の特性を評価した。その結果、シリコン仕上げを行なった漆塗膜表面と蝋色仕上げを行なった漆塗膜表面には明度、光沢度、親水性に差異があることを明らかにした。さらに、表面仕上げの違いに関わらず、紫外線照射に伴う劣化の動向はほぼ同一であることを明らかにした。また、現在流通している2社の蒔絵金丸粉は号数の違いに関わらず、全てほぼ同一の元素構成をしているが、形状には大きな差異があることを明らかにした。さらに、銀丸粉の粉形状や元素の構成比の違いに関わらず、磨きによって表面の硫化を取り除くことができることを示した。 第7章では、得られた知見を総括し、本論文の結論を述べた。
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http://repository.lib.kit.ac.jp/opac/repository/10212/2326/D1-0800_y1.pdf

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