学位論文 銅表面の有機および無機被膜による酸化耐性の付与と電気伝導性への影響

池田, 卓也

2016-03-25
内容記述
本論文では銅の表面で形成される酸化銅を除去し、表面に薄い保護層を形成することで酸化耐性を付与し、形成した保護層が銅の電気伝導性に与える影響について検討を行った。ここでは酸化耐性を付与する二種の保護層について研究を行った。 第1章では本研究の背景と目的、重要性および関連する研究について論述した。第2章では銅の表面に形成された酸化銅を臭素化し、表面の酸化銅の除去と保護層の形成をワンポットで同時に行い表面を臭化銅層で被覆する手法について述べた。第3章、第4章では表面の酸化銅の除去した後に、銅に対して親和性を示すチオール基を末端に有するポリスチレン(以下、PSt-SHと略す)の薄層を形成することで酸化を抑制する方法を検討した結果について述べた。 第2章では表面を無機材料である臭化銅層で被覆した銅の酸化耐性とそれによる接触電気抵抗への影響について論述した。シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩(以下、CHABと略す)のジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(以下、DGMEと略す)の溶液に銅板を浸すことで表面の臭素化処理を行った。安定した臭化銅層を形成するために臭素化処理溶液へ水を添加し、水が酸化耐性に与える影響の重要性について述べた。XPS測定より銅の臭素化処理は処理溶液に水を添加することで効率的に臭化銅層が維持されること、CHABの濃度を高めることで臭素化処理された銅板は効果的に酸化抑制することがわかった。また、四端子法による接触電気抵抗測定から、臭化銅層は電気伝導性をほとんど阻害しないことが分かった。また、加熱による酸化促進とそれによる電気伝導性への影響を調べたところ、100℃、4時間加熱でも電気伝導性の低下が認められなかった。これらの結果は表面に形成された臭化銅層が銅金属表面への酸化耐性を付与し、これが水分の影響を受けることを示している。 第3章ではPSt-SHの有機薄膜による被覆は銅板および銅微粒子の酸化耐性の付与に有用であることを述べた。薄膜の形成は銅の表面に形成された酸化銅層を塩酸酸性エタノールにより除去し、PSt-SHのテトラヒドロフラン(THF)溶液に浸漬することで行った。XPS測定より銅の表面からチオール基由来の硫黄のピークおよびポリマー鎖由来の炭素のピークが検出され、PSt-SHで被覆されたことが分かった。また、90℃から150℃まで10℃刻みでそれぞれ1時間加熱したところ、150℃で1時間加熱しても硫黄のピークは消失しなかった。一方、比較として低分子化合物である1-ドデカンチオール(以下、Dod-SHと略す)は130℃への加熱で硫黄のピークは消失し、酸化が進行した。目視による外観の確認したところ、高分子のPSt-SHで被覆された銅板および銅微粒子は150℃の加熱後も銅特有の茶色は失われなかった。このことはXPSの酸化耐性の評価結果とも対応しており、PSt-SHの有機薄膜による被覆は酸化耐性の付与に有効であることが分かった。また、四端子法による接触電気抵抗の測定から、室温ではPSt-SHとDod-SHで被覆した銅板および銅微粒子は共に接触電気抵抗の増加は認められず、この種の有機薄膜は電気伝導性を阻害しないことが分かった。また、150℃の高温では高分子のPSt-SHのみ電気伝導性が保持された。PSt-SHの薄膜は銅の酸化耐性の付与に効果があり、高い電気伝導性を維持するのに非常に有効であることが分かった。 第4章ではPSt-SHの有機薄膜による被覆の酸化耐性への影響について電気化学的手法のCyclic voltammetry(以下、CV)測定により還元挙動を定量的に解析することで検討を行った。 CV測定から空気中における加熱後の銅の酸化還元曲線のカソード掃引における積分値より電荷量を求め、酸化耐性を評価した。高分子のPSt-SHで被覆した銅は酸化耐性の保持が大きく、150℃に加熱しても電荷量の増加は抑えられ酸化耐性が高いことが分かった。一方、塩酸処理のみの被覆されていない銅板は90℃以上の温度で還元に要する電荷量が増加し、低分子のDod-SHおよび1-オクタデカンチオールで被覆した銅板では130℃以上で増加した。このことは第3章のXPSによる酸化耐性の評価結果とよく対応している。これらの結果より、CV測定からもPSt-SHの薄膜は銅の酸化耐性の付与に有用であることが示された。 第5章では本研究のまとめと今後の展望と併せて銅材料への無機、有機被膜技術の実用化への課題を述べた。
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