Thesis or Dissertation 真社会性昆虫への共生と捕食に関する行動化学生態学的研究

水野, 尊文

2016-03-25
Description
真社会性とは主に昆虫で進化してきた社会形態で、同種の複数個体が共同して子を育てる「共同育仔」、その集団内で生殖個体と非生殖個体が分かれて存在する「生殖分業」、子世代が巣内の労働を行う程度に成長するまで親世代と共存する「世代重複」の3つの特徴を併せ持つ。真社会性は主にアリ、ハナバチ、狩りバチ、シロアリの仲間で広く認められており、これらの真社会性昆虫は、人間に匹敵するほどに大きいバイオマスをもち、捕食者や分解者として生態系内の他生物に大きなインパクトを与えている。そのため、多岐にわたる生物と共生、寄生、捕食被食などの関係を構築しているのが特徴である。 真社会性昆虫と関わる多くの昆虫種では化学物質を介してその関係性を構築している。これはアリ・ハチ・シロアリのいずれの真社会性昆虫でも、集団生活を円滑におこなうために個体間コミュニケーションが発達しており、その情報媒体として主に化学物質を利用していることに起因する。同種内個体間で情報媒体として機能する化学物質をフェロモンと呼ぶが、真社会性昆虫においては多種多様なフェロモンが状況に応じて多岐にわたる情報を伝える役割を果たしている。真社会性昆虫の行動の多くはフェロモンによって制御されていることから、真社会性昆虫と関わる多くの生物は、その多様なフェロモン物質をアレロケミカル(異種間相互作用における情報媒体の化学物質)として利用している。また、アレロケミカルを用いずに真社会性昆虫と関わる生物種も存在しているが、排他的・攻撃的な真社会性昆虫と関わり合いを持つことは危険と背中合わせであることから、非化学的な要素を用いた適応的形質を備えているものと考えられる。 本研究では、ミツバチなどの訪花性昆虫を捕食するハナカマキリ(第一章)、アリやシロアリを捕食する小型のメクラヘビ(第二章)と、真社会性昆虫を捕食対象とする生物の適応的戦略と、広範囲なアリ種を随伴させる能力をもつ好蟻性のミヤマシジミ(第三章)による共生のための適応的戦略に着目し、それぞれの生物種が実際に対象とする真社会性昆虫に対して示す具体的な戦術について検証した。 生息地で実施した野外調査からハナカマキリHymenopus coronatusの幼虫はかなり専門的にトウヨウミツバチApis ceranaを捕食していることが明らかとなった。この結果はハナカマキリの幼虫が、化学情報交信に頼るトウヨウミツバチのコミュニケーションシステムに介入するような捕食戦術をとっていることを示唆している。ハナカマキリの幼虫が持つ化学物質をGC/MSにより分析したところ、トウヨウミツバチのフェロモンコミュニケーションに関わることが知られている3-hydroxyoctanoic acid(3HOA)と10-hydroxy-(E)-2-decenoic acid(10HDA)が検出された。また、ハナカマキリの幼虫がハチを捕食しようとしているときに3HOAを空気中に放出していること、人工的に合成した3HOAと10HDAの混合物に対して採餌中のトウヨウミツバチが誘引されることが示され、ハナカマキリの幼虫はトウヨウミツバチのフェロモンコミュニケーションに関わる2種の化学物質を用いて、トウヨウミツバチを効率的に誘引、捕食することが示された。 また、主にアリの幼生やシロアリを餌とするブラーミニメクラヘビIndotyphlops braminusの摂食行動を詳細に観察したところ、アリの幼生を捕食する場合には丸呑みにするが、ヤマトシロアリReticulitermes speratusを捕食する際には腹部と胸部だけをのみ込み、頭部を千切って残す行動が観察された。ヘビによる獲物の切断例は珍しく、ミズヘビ科で丸呑みできない大きさのカニの肢を千切って捕食する例が知られているのみであった。今回の調査対象となったメクラヘビがシロアリの頭部を切断する確率は約50%程度であり、体サイズ上はシロアリを丸呑みすることも出来るため、ミズヘビ科のカニ捕食のケースとは行動学的意義が異なるものと推察された。シロアリ捕食後のメクラヘビの糞には原型を留めたままのシロアリの頭部が多数含まれていたことから、シロアリの頭部切断行動は消化しにくいシロアリの頭部を除去するための適応的行動である可能性が高い。 アリと共生関係を持つミヤマシジミLycaeides argyrognomonは、幼虫期に保持していた好蟻性器官の幾つかを蛹期には失ってしまうため、アリとの共生関係維持に重要と謂われる蜜分泌も出来なくなってしまう。それにもかかわらず、潜在的には捕食される恐れもあるクロオオアリCamponotus japonicusの巣内で蛹化することもあり、その場合には幼虫期に随伴していたのと同じ個体のアリが随伴し続ける傾向が強い。今回、それらの蛹の体表面には数種の直鎖飽和脂肪族アルデヒドが含有されており、それがアリの攻撃性を抑制することが示された。また、ミヤマシジミの幼虫に随伴した経験があるアリ個体は、随伴経験をもたないアリと比べて、ミヤマシジミの蛹に対しても随伴行動を示す傾向が有意に高まり、さらにその羽化時に蛹殻から放出される匂い物質に対して強く誘引される傾向が認められた。これは脆弱なミヤマシジミの蛹と羽化直後の成虫が、潜在的捕食者でありながら随伴行動を示すアリからの攻撃を免れるための防衛手段として機能するものといえる。 これら3種の生物と真社会性昆虫との関わりを通して、真社会性昆虫に対する捕食と共生の行動・化学的な戦術について考察を行った。
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http://repository.lib.kit.ac.jp/opac/repository/10212/2309/D1-0783_y1.pdf

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