Thesis or Dissertation いけばな技術の工学的研究

池坊, 由紀

2015-09-24
Description
いけばなは、日本を代表する伝統文化である。6世紀、仏教伝来とともに伝わった仏前荘厳のひとつである仏前供花にその起源を持つ。時代の変遷に従い、いけばなは供花から饗応の花へとその性格を変容させたが1500余年にも亘り、日本人の美意識やアイデンティティを象徴する存在として日本の生活に根ざした文化として認知されている。現在、統括団体である日本いけばな芸術協会に加盟するものだけで350以上の流派を数え、いけばな学習者はおよそ200万ともいわれている。また、いけばな人口は日本に留まらず世界各国に広がっている。いけばなの最古であり最大流派である池坊にあっては、文献に記されてから553年の歴史と、世界に100支部を展開するに至る。2014年12月施行の花き振興法では、いけばなが日本人の生活にこれまで与えてきた影響の大きさが再確認されている。 いけばなに関する研究は、これまで主に歴史的経緯に興味の端を発するものがほとんどであり、主に史学的、或いは美学的分野からなされてきた。花を飾る文化として世界的にも独自性を持ついけばなは、まだまだ多角的に解明される余地があると考えられる。また、その実践者としての立場として指導者や学習者がおり、いけばな各流派に於いて、その教授法は各流派の指針とする教義によって制定された教則本や、教授者の経験知から導き出されているが、十分とは言い難い。日本人の美意識に基づき発展してきた過程に於いて、経験値に依存する部分が多く熟練者のみが理解しうる「閉じた世界」を、一般にも理解し得る「開かれた世界」に転換させ、社会と共存し社会に寄与することが今後必要とされると考えられる。そのためにすべきこととして2点挙げられる。ひとつは経験知のみに依るのではない科学的な指導法の確立であり、ひとつはいけばなの応用に対する定量的評価である。 そこで本研究では、いけばなで必要とされる技術を科学的に分析し、定量化することを試みた。これはこれまでのいけばな研究ではありえなかった視点であり、手法である。このことにより、いけばなの熟練者のみに蓄積され、無意識のうちに活用されてきた暗黙知が、数字という共通言語によって誰もが理解しうる形式知へと変換できると共にいけばなの本質が工学的見地から明らかになる。これによっていけばなの指導の一つの基準を提示することができる。データに基づいて編み出された合理的指導法により、国籍や文化的環境を問わない普遍的な指導内容となり、いけばなの世界的展開も可能となるであろう。 本論文は、1章の序論から第8章の結論までの8章構成である。以下に第2章以降の目的と内容について簡潔に記述する。 2章では、いけばなの作品を形作るのに必要な、撓める技術について研究した。いけばなで一般的に用いられる花材を弾性率と塑性域及び加工硬化係数の関係から、その撓めやすさを算出し提示した。熟練者と初心者による撓め作業の比較では、熟練者は意図する形に枝を撓めることができており、また熟練者が撓めた枝は、初心者と比較すると経時変化が少なく、完成時の姿が保たれている傾向が見受けられた。3章では、熟練者は鋏を急激に加速して切断していたが、未経験者は鋏を緩やかに加速させ切断していることが判明した。このことにより、熟練者は花材の断面への損傷が少なく、花材の水もちが良いと推定される。 4章ではいける一連の工程分析を行うことにより、型を有する生花では作品の制作時の調整作業が、型を有さない自由花では作品の構成作業に熟練の度合いが反映されることが判明し、いけばなの様式による特性が顕著となって表れた。 5章から6章では、観るという行為から完成した作品の評価について検討した。5章では、熟練者は流派の様式美や美意識に則りながらも個々の解釈やアレンジが可能であり、それらを作品上に表現しており、それを美しさとして結びつけているが、未経験者ではいけばなの様式は感じてはいるが、アレンジを加えることや、それを必ずしも美しさとして評価しない傾向があることが明らかとなった。従って、いけばなにおいては、生来の美的感覚のみならず、学ぶことによって培われる美意識や感性が評価に大きく反映されると考えられる。熟練者は写真媒体に於いて実作と同様の評価を下すことができており、熟練者の審美眼が一定であることが確認された。6章では、作品制作後に行われる手直しに於いて、否定的評価と手直しとは相関関係にあること、またいけばな様式における特定の部位よりもむしろ、作品の中で葉の茂っている状態の花材を含む部位に意見が偏りやすい傾向が見受けられた。以上、本研究の成果として撓めやすさを明らかにすることによって、学習者の上達に応じた適切な花材提供や、切る速度を意識させた鋏の使い方指導、また学習者がいける際の留意点などが明らかとなった。また、指導者の少ない地域であっても写真による指導が可能であり、指導法の向上に有益であると考えられる。 7章ではいけばなは、カラオケ、DVD鑑賞といったレクリエーションと比較し、実施中はもとより実施後もその感情面の改善傾向を維持することをできることが判明した。
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