紀要論文 村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』における「影」 : 「影」をなくすこととは何か

鄭, 秀鎮

15pp.143 - 159 , 2017-03-01 , 東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻
ISSN:13478931
NII書誌ID(NCID):AA11831019
内容記述
本稿では、村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の中で「影」が主人公「僕」から切り離されて消滅に追い込まれる事態に焦点を絞ってそれが持つ意味を考察する。まず、情報暗号化作業のため「僕」の頭の中に設置された第二の思考回路、そしてこれをさらに技術的映像に視覚化した第三の思考回路の成り立ちとそこに駆使されたテクノロジーを検討する。これを通して、無意識を統制して人間から偶然をなくすことで、また無意識の内容をホログラフとコンピューターで視覚化することで人間固有の精神的領域が縮小される事態が「影」の消滅とどのように関わってくるのかが明らかになる。そして本当の夜が消滅した「ハードボイルド・ワンダーランド」―という1980 年代半ばの日本―における生き方が、自分の自我から「影」を駆逐していく様相を浮き彫りにする。このような「影」の分離と消滅の分析から見えてくるのは、近代的自我が動揺する脱近代的状況の中で、文明を起こして以来ずっと自分のアイデンティティの領域を狭めてきた人間が、近代的自我まで手放すに際して感じる戸惑いと抵抗の素振りである。
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